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読書感想など

【小説】サマーバケーションEP/古川日出男

8月はとうに終わり、9月も半ばになろうとしている。残暑はまだ続いているが、今年は夏そのものを体験したという気持ち良さを感じることができなかった。
 
平日は朝晩以外は外に出ることなく、激しい太陽の光を浴びる機会に恵まれず。休日も曇りや雨が多いためか気温もそこまで高く感じなかった。いわゆるうだるような暑さを感じずに夏が終わってしまった。バットマンヴィラン:ペンギンは地球温暖化から氷を守ると言っていたが、はてさて本当に温暖化が進んでいるのか疑問に思ってしまう。
 
けものフレンズが再放送されたことは記憶に新しいが、夏の再放送といえば、スラムダンクだ。夏の間だけなので到底全話放送はできず、毎年の方に途中で切れてしまう。いつの夏からだろうか、それも終わってしまった。
 
イカは食べた、祭りに行かなかった、花火は雨のなか見た、カキ氷を食べていない、プールに行かなかった、浜辺にはいった。そういえばこの本を読み返さなかったなと本棚から取り出した。
 
『サマーバケーションEP』ただ歩いて東京を横断する。それだけの話だが、ここには私の憧れがいくつも詰まっている。
 
《内容紹介》

僕は冒険をするために、井の頭公園に来たんです――

20歳をすぎてようやく認められた〈自由行動〉。他人の顔を憶えることができない「僕」は、出会った人と連れ立って、神田川を河口に向かって歩き始める。世界に対する驚きと無垢さに満ちた、再生の物語。

 
サマーバケーションEP (角川文庫)

サマーバケーションEP (角川文庫)

 

フィリップ・K・ディック短編集など

その日は映画を見るために新宿バルト9へと向かった。
あまり行った事がない映画館だったのでチケット売り場が長蛇になっている事に驚いた。いつも行っている映画館は昼でもそこまで並ぶ事がない。地域差なのか、作品数の差なのか、単純に売り場が狭くてチケット販売機の数が少ないせいなのかは分からない。
 
10分ほどして自分の番が回ってきたので19時からの「パワーレンジャー」を選択。まだ時間に余裕があるので席もそこまで埋まっていない。料金払いをする為に、クレジットカード払いを選択。クレジットカードを専用機にスライドさせるが、読み取ってくれない。
 
裏表を試してみるが読み取らない。逆さまにしてみるが読み取らない。もう一回最初の向きで試してみるが読み取らず、「お客様のご使用のクレジットカードご使用できません」といった内容の文言が表示されるのみ。現金で支払いチケットを受け取るが、足元がグラグラする。
 
・限度額いっぱいに何か購入しかた→これといって何も購入していない。
・カード情報が流出したか→ないとは言えない
・不明な動きがあればカード会社から連絡があるのでは→カード会社も絶対ではない。
・確かクレジットは一度止めたら再発行するのが面倒だったはず→背に腹は変えられない。
 
行き先も決めずそんな事を考えていた。さっきまで映画を楽しみにしていたのに一気に急下降。逆さまだ。ぐらりぐらり、気温の暑さとは別の体内から汗が流れ出てくる。腹も痛くなってきたので堪らず三越のトイレへと駆け込む。
 
古いビルなのでこじんまりとしているが、きれいに整備されているトイレに感謝しながら、「さっきのは単純にバルト9が取り扱いを止めていたのでは」という楽観的に捉えようとした。しかし確信が持てない。使用できるかどうかはもう一度使ってみるしかない。
 
と、尻を拭いてから暖かいお茶を買い求め、ブックオフエスカレータを登り文庫本コーナーへ。そこで記憶喪失者の視点から始まる「異邦の騎士 改訂完全版 /島田荘司」を手に取り開いた。

 

 

”とてつもない恐怖ーーー!”

 

 
私もそうだよ名も知らぬ人よ!
 
レジへ向かい、クレジットカードを差し出す。数100円をクレジット払いというのも心苦しいがこれしかない。カードを読み取り、番号を打ち、数秒待つ。「ブックオフのおじさんお願いします」とブラックエプロンのスタッフさん相手に祈ってると決済があっさりと通った。
 
読み通りバルト9ではカード使用の扱いを止めていたようだ。
クレジットカードは問題なく使用することが分かり、このディック的な世界から抜け出すことができた。あれだけ色が失われていた世界が極彩色に見える。私は暖かいお茶を口に含んでから映画館へと向かった。
 
手持ちのフィリップ・K・ディック著書をまとめて読んだ。
幾つものシチュレーションで繰り返される人間と非人間の境界の曖昧さ、というモチーフ。アイデンティティの崩壊を垣間見た人物の悲喜交々は現実とよく似ている。
 

 

 

スキャナー・ダークリー (ハヤカワ文庫SF)

スキャナー・ダークリー (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

流れよわが涙、と警官は言った

流れよわが涙、と警官は言った

 

 

 

人間以前 ディック短篇傑作選

人間以前 ディック短篇傑作選

 

 

 

異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版

 

 

【小説】大怪獣記/北野勇作

商店街を歩けば、お惣菜屋さんや豆腐屋さん、金物屋さん、八百屋さん、魚屋さんなどがずらっと並んでいる。
漠然とした商店街のイメージがそれだ。私の田舎には商店街というものがない。あるにはあるが、ないに等しいシャッター街だ。個人店が一箇所に集まっているという事がなく、あちらこちらに散らばっている。それぞれ行くにも面倒だからスーパーに行ってしまう。
 
なんとなくの商店街のイメージしか持っていないのにもかかわらず、ニュースなどで商店街特集をやっていると、何故か懐かしい気持になる。これは嘘のノスタルジックだ。それにも関わらず浸っている。
 
散歩するのが好きなので、行き先をなんとなく決めて裏道を通っているといつの間にか商店街に出る事がある。活気がある商店街もあれば、閑散としてる商店街もある。そのどちらも好きだが、お店に寄る事がない。「どうせ二度と来る事もないだろう」と切り込めば良いのだが、二の足を踏んでしまい、コミュニケーションをとる事ができない。そして通り過ぎていく。
商店街のベタさにどこか羨望している自分がいる。それは商店街以外にも、年末年始のお参りにも当てはまる。(げんしけん成田山のエピソードがとても好きなのだが実行には至らず)ただ、創作物と実際は異なるので、あんな雰囲気は楽しめないだろうな、と最初から決め付けている。それでも憧れや羨望を捨てきれず、捨てない事を楽しんでいる。
 
『大怪獣記』を読了。
ああ、懐かしい。自分の中で作り上げている嘘のノスタルジックが満たされていく。私はかつてこんな場所にいたのかもしれないと錯覚を起こす。甘酒を飲みたくなるが、口にしたのは一度だけで美味しかった記憶もまずかった記憶もない。北野勇作さんの肩の力が抜けた大人の余裕のある小説は心地が良い。
 
《内容紹介》
ある日、作家である私は、見知らぬ映画監督から「映画の小説化」を依頼される。
茶店で渡された企画書には「大怪獣記」というタイトルが大きく書かれていた。
物語の舞台はこの町と周辺、そして、実際の撮影もここで行うということで、
協力を仰ぐ商店街の名前や町内会なども記されていた。
私の代表作は亀シリーズで、「亀伝」「電気亀伝」「天六亀」。
その他には「メダカマン」「ヒメダカマン」「タニシ氏の生活」「ジャンボタニシ氏の日常」などがある。
その映画監督は、そんな私の著作を「あなたの作品にはね、怪獣に対する愛がある。
いや、もちろん怪獣そのものは出てこない。 でもね、それはあれなんだな、愛なんだ。愛するが故に出せない」と褒めてくれた。
当初映画のノベライズかと思っていたが、そうではなく「映画の小説化」だという。
途中までできているシナリオをを受取るために連れられて行った豆腐屋で、私は恐ろしい体験をする……。