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読書感想など

【小説】夜行/森見登美彦

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森見登美彦といえば黒髪乙女である。

 

森見登美彦氏の新刊「熱帯」が発売されたタイミングでまだ読んでいなかった前作の「夜行」を読むことにした。

 

カバーイラストを見てみよう。黒髪ロングの女性がこちらを向いているが視線を外している。その背後には通り過ぎていく列車と今にも夜に包まれそうな(または夜が明けようとしている)風景が広がっている。

黒髪乙女・列車・夜行・夜
ここから導き出されるストーリーは、


夜行列車に乗った大学生の僕は偶然出会った黒髪乙女に一目惚れをした。彼女の後を追い列車の行ったり来たりするが追いつくことが出来ない。
そのうち黒髪乙女を追うライバルの出現や、日曜クラブの宴会に巻き込まれ列車に住むという狸の捕獲を命じられる、樋口と名乗る天狗に勝手に弟子にすると主従関係を結ばれるなど長い長い夜行列車の一夜が始まる・・

 

と、ここまで森見登美彦的想像を切り貼りしてからページをめくるが1ページ目から様相が違った。
森見登美彦を広く広めたのは「夜は短し歩けよ乙女」であろう。しかし、実は同じ京都が舞台でもポップさの欠片もないの「きつねのはなし」という小説がある。

「夜行」は「きつねのはなし」を引き継ぐ日本伝統の怪奇小説なのだ。

 

あらすじ


京都で学生生活を過ごした六人の男女が十年ぶりに集まった。久しぶりの再会に浮き足立つが、そこには一人の女性が欠けていた。
その女性は十年前の鞍馬の火祭の日に忽然と姿を消してしまった。その出来事は六人の心に深く突き刺さり、忘れることがなかった。

仲間と再会する数時間前、主人公は偶然にも彼女によく似た女性を見かけ後を追いかけるが、ある画商で見失ってしまった。その画商には「夜行」というタイトルのつけられた連作の銅版画があり、顔のないのっぺりとした女性がこちらに呼びかけるように手を上げていた。
そのことを仲間に話したことをきっかけに一人、また一人と旅先でその絵に関するエピソードを話し始める。

 

旅先で彼女に出会ってしまった仲間達

 

ある人は、妻を追いかけて。
ある人は、夫と友人との旅先で。
ある人は、昔の知人と偶然再会して。

いずれも旅先で同じように顔のない女がこちらに呼びかけている銅版画が登場する。
そして直接的な言い方はしていないが死または、この世ならざるものに誘われてしまったことを暗示させる閉じ方をする。

 

しかし、最後の語り人によってひっくり返る。
「今まで読んできた話は一体誰のものだったのか」と顔のない語り人たちがこちらを向いたかのようだった。
幽霊、幽鬼、といった日本伝統の怪奇にぞくりとしていた中で最初に感じていた違和感が解消されると供に背筋が凍る思いをした。(紋切り型な言い方だが、体験してしまうと「背筋が凍る」がとてもしっくりとくる)

 

京都を舞台にしたポップな世界観が好きな人には森見登美彦氏の違う面見てもらいたい。
ホラー小説好きな人にもお勧めしたい一冊。

 

 

夜行

夜行

 

 

 

【半エッセイ】東大夢教授/遠藤秀紀

 

東大の教授である遠藤秀紀氏は動物の遺体を解剖して、まだ知られていない秘密を解き明かす「解剖学者」という肩書を持っている。

動物の遺体、といっても簡単に手に入るものではない。

日本にいる貴重な動物がもし亡くなったとしても必ずしも提供していただけるわけではない。 しかし解剖しなければ明かされない秘密が秘密のままとなってしまう。

逆に提供していただける算段となっても、数百キロもある動物をどのように運ぶのか、それほどまで巨大な動物をどこで解剖するのか、迷っていればみるみるうちに鮮度が落ちる。朝になれば開演となり人の目に触れる可能性がある。

しかもそれが同時多発的に起きたとしたら。。

と、遠藤秀紀氏の日常を日記式で語られる。

 

動物に関する話だけではなく、大学の拝金主義に唾を吐きつけるような話もあれば、一人の女性を救ったり、猫の死体を片付けたりする。また、筋金入りの電車オタクであり、特撮オタクでもあるため、語り始めたら止まらない。

 

400ページにも及ぶ本書では様々なジャンルの話が展開される。実は完全なるノンフィクションではなく、真実を織り交ぜたフィクションであるとこがあとがきにて明かされる。しかし、そうだとすれば遠藤秀紀氏は相当なストーリーテラーである。

 

文章がうまく、構成が変わるため飽きることがない。ある話で登場した人物がいつの間にか一緒に働いていたり、と一冊の連続短編集の顔を持っている。

 

 

東大夢教授

東大夢教授

 

 

『16年ぶりの奏でられた長編』零號琴/飛浩隆

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零號琴。はて、なんて読むのだろうか。

ぜろごうとらきん。れいごうこと。ぜろとらこと。

答えは零號琴(れいごうきん)だ。

 

こんなの読めるか!と怒ることもなく手に取る。なにしろSF小説なのだからしょうがない。タイトルでまず「一体どのような内容なのだろうと」と惹きつける必要がある。

 

では、零號琴とはなにか。一言でいえば曲だ。

特種楽器技芸士のトロムボノクと相棒シェリュバンは惑星〈美縟〉に赴く。そこでは首都全体に配置された古の巨大楽器〈美玉鐘〉の五百年越しの竣工を記念し、全住民参加の假面劇が演じられようとしていた。上演の夜、秘曲〈零號琴〉が暴露する美縟の真実とは? 『グラン・ヴァカンス』以来、16年ぶりの第2長篇

あらすじさんありがとう↑

 

仮面をかぶり伝記の劇を演じる。伝記とは、いうなれば桃太郎やかぐや姫のようなおとぎ話、古事記と思っていただきたい。

ただそれだけなのだが、脚本を手がけた人物が気が狂ったと思われる本を出してきた。

その宇宙で人気を博したアニメフリギアマッシュアップしたのだ。

プリキュアではなく、フリギアだ。)

 

記事冒頭の写真を見ていただきたい。金と黒の重厚なデザインに明朝体のフォント。いかにもハードルが高そうな本に見えると思う。しかし中身は昔ながらというと語弊がありそうだが、12チャンのハチャメチャSFアニメぐらいのノリの軽さ。そこら中にあるパロディの数々はオタクであれば元ネタ探しに夢中になれるだろう。

それくらいライトなものなので構えることなく読んでみてほしい。

 

ただしそこに含まれる物語は軽くない。

すぐにその綺羅びやかな都市の風景に引き込まれ、同時に奇妙と怖さが入り混じった気持ち悪さを感じるだろう。

 

 

美しく、気持ち悪く、謎が巡り、フリギアが舞い、音楽が奏でられる。

 

零號琴

零號琴