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読書感想など

光はあるのか?『教団X』/中村文則

 

教団X

教団X

 

 

 

概要・あらすじなど

物語の主人公である楢崎はかつての恋人、立花涼子がその松尾のサークルに通っているという話を聞くところから始まる。流れとしてはお互いの教団の様子を交互に描写をする構成となっており、複数人の視点が入り混じる。
 
教団X:公安にも目をつけられている危険とされているカルト教団
描写されていないので具体的な活動は不明だが物語の後半で明かされる。それまでは教団同士がお互いの体を貪りあっている描写が続くのでポルノ小説かと勘違いしてしまうし、お決まりの説法の描写もない。ただ教主である沢渡に心酔して狂信者といっても良い。教団のはピラミッド型ヒエラルキーとなっており、沢渡を頂点として幹部が数名、その下多数の信者が存在している。
 
団体:宗教団体というよりもサークルのようなもの。
代表の松尾の話を皆聞きに来ている。ユーモアを交えながら釈迦がどういった人間でどのようなことを考えたのか、原子や細胞、宇宙の成り立ちなど科学的な話から脳みその話まで大学の講義をイメージしてほしい。また、教団Xの様に上下関係がはっきりしているわけではなく、昔から参加しているので協力している程度のゆるいつながりといって良い。
 
方向性の全く違う2つの教団だが、代表の松尾と沢渡は過去に因縁があり、男と女の交わりによってストーリーは加速していく。
 

ストーリー構成

ストーリーの前半は松尾の講義にページを割かれ、小説のテーマとなっている「宗教」について釈迦の話や原子、宇宙の話を順序良く説明することで読者側にまず前提を知ってもらう。それによりその後の展開や主張に対してスッと入ってもらうための構成だとは思うが正直ページを割きすぎじゃないかと思ってしまう。
 
ストーリーの後半はほとんど峰野・高原・立花が中心となって教団Xのテロが進行していく。教団内の人間関係から謎の女性、立花涼子や様々な人間が登場してそれぞれ有機的に繋がっていこうとする。しかし「おやっ」と思ってしまったのが、あるシーンではそれまで話に出てこなかった靖国神社や戦争に関する話が始まってしまうので、そこが妙に今までの主張と違っていて浮いていてチグハグな印象を受けてしまった。
 

人物描写について

遮光、掏摸、迷宮、あなたが消えた夜に、を読み終わってから教団Xを読んだ感想としてはユーモアがある登場人物が出てくると今までの中村文則さんの作品にない要素だったので妙にこそばゆい。正確に言うと「あなたが消えた夜に」でもキャラクター立ちする要素を加えた人物が登場するのだが、そちらの方が自然(?)な感じがした。
そして女性、男性共に今までの作品に出ている様なデジャブを感じてしまう。
 

文体について

小難しい言葉を使うこともなく、わかりやすく理路整然としていたと思うが、性交シーンではまるでポルノ小説の様なクサイ台詞なので変に面白い。

終わりに

全体を俯瞰してみると少々風呂敷を広げすぎてしまって締まりがない印象があるが、吐き気催してしまう様な邪悪な人物の描写や、暗く寂れている中村文則さんの武器としている部分はやはりよかった。その一方、その人物、キーワード、エピソードを挟む事が必要だったのか疑問におもってしまう点もあった。
 
また、同作者の「あなたが消えた夜に」でも言えるが、なぜ犯人や黒幕は自分で自分の過去を語るのだろうか。少年漫画の悪役が自分が悪に堕ちた理由を説明するように全部自分で説明してしまうのである種の神秘性が薄れてしまう。特に秘密のベールに包まれている様な教主といった役割を与えられている人物には語らせる以外の別のアプローチがあっても良いはずだ。