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読書感想など

ジャンル入り乱れる短編集『雪山の白い虎」/デイヴィット・ゴードン

 

雪山の白い虎

雪山の白い虎

 

 

本の内容や作者よりも表紙のデザインに目を奪われた。灰色が混じった薄い水色の雪山に白、灰、青の虎が何十頭も歩きながらどこかへ向かっている、その虎のイラストが怖い顔をしているのだけど可愛らしく手に取ってしまった。

 

初めの一編を読んでみる。冴えない男がプールに通い詰め女と出会う話。うーむ、面白くなわけではないけどもこの調子で全ての短編が恋愛小説だと同じパターンで飽きてしまうな、と思いつつ次の話を読み始める。今度は薬漬けの男とそれを見張る男の話だ。お、これは好きだ。面白い。二人の間に友情が芽生えたが、最期は悲しみが残る。次だ。若い女性とポルノ小説家。”美尻学修士"なんて早々出てこない単語だ。そしてこの短編集にがっつりハマってしまう決め手となったのが『スー・リー・チェン』。

あらすじ 

元恋人のニーナから昔の恋人を探し出す様に頼まれた男の話。しかも昔の恋人といっても「前世の恋人」なのだ。

ニーナの話では自分の前世はスー・リー・チェンという名の中国人で大商人の息子ユン・ピンと恋に落ち、駆け落ちをするがニューヨークで心中してしまった。という霊媒師に言葉を信じてしまい主人公に前世の恋人探しを依頼した。新聞に広告を出して、チャイナタウンをさまよい歩きながら餃子を食べたり、中国茶をすすったり、DVDを買ったりしながら楽しんでいた。しかしその心中ではニーナに対して「まだ自分を愛しているのか」と聞くことができないままでいた。そしてある日ユン・ピンに関わる決定的な行動に出てしまう……


ジャンルの入り乱れた短編集

『スー・リー・チェン』は最初は怪しい話に騙された話なのかと思いきや、ミステリー要素が含まれていて短いながらも探偵物としてとても面白い。

その他の短編を読んでいくと恋愛、青春、成長、ミステリー、ホラー、ポルノ、アクション、宗教、ノワール様々なジャンルが入り乱れている。だからといってその一つ一つのレベルに差は見られない。あとはどのジャンルが好きかによる。文体は軽妙な地の文が続いたと思えば多彩な修飾語や比喩が美しく癖になりそうだ。


作者概要

作者はデイヴィット・ゴードン。『二流小説家』でデビューをして日本で「このミステリーがすごい! 」などのランキングで一位にランキングし、日本を舞台にして映画化もされた。短編の幾つかに文学について書かれていたり、うだつの上がらない小説家を主人公となっていることが多く、解説を読んでみると実際にポルノ雑誌の編集をしていたり家賃が払えずに友人宅を転々としていた時期もあったそうだ。

 

30ページほどで完結する話が多く、海外小説に触れたことがない方でも試し読みだけでもしてほしい。