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読書感想など

引用されるけど話は知らない…『ライ麦畑でつかまえて』/J.D.サリンジャー

 

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あらすじ

主人公のホールデンは有名高校の生徒で成績不振に陥っている16歳の少年。彼は先生・同級生・何もかもにうんざりしている。成績不良で退学になる直前の冬、自分から学校を出るところから物語は始まる。ニューヨークをさまよいながら昔の先生や友人やガールフレンドに再会していく。

 

掴みにくいストーリー

読み終わってから思ったのは、とても掴みにくいということだ。あらすじにしたら”学校を追い出された主人公ホールデンがニューヨークで過ごした三日間”と簡略化できる。しかし、この単純なあらすじはホールデンによってかき乱されていく。

ストーリーなんてあってないようなもので、ロマンスもアクションもなく、ただホールデンの無計画な旅の後ろをついて回っている。考えられる悪態を数十個も巻き立てるくらい口が悪く、息を吸うように嘘を重ねる。行動はいつも発作の様に突然で頭の中はセックスのことばかり。

しかし、そんなホールデンに同情してしまうほどニューヨークに来る前も来てからも良いことなんて起こってくれない。年齢詐称も通じず酒はもらえずコークばかり飲んで、殴られた挙句金は巻き上げられ、女とは喧嘩別れをする。一つ一つ並べてみてもどれも体験はしたくないもんだ。

 

脇道、寄り道、回り道は楽しいもんだ

ホールデンという奴は誰かと楽しく、空気をかき乱さず大人しくしていることは、まず無理な話だ。少しでも気に入らなければわざと相手をイラださせたり怒らせたりする。まるで「そうしなければならない」と強迫的だ。

ここで小噺を一つ…と話が脇道にそれて、「あいつはくだらない奴だ」「あいつは良い奴だ」なんて主題からどんどんずれていく。ただ時には、その脇道に逸れたセリフやエピソードが、とても悲しくなったり、気づかせてくれる。
個人的にこの作品の魅力はその脇道、寄り道、回り道にあると思っている。

 
”「死んでいることはわかってるよ! 僕がそのことを知らないと思っているのか? それでもまだ僕はあいつのことが好きなんだ。それがいけないことかい? 誰かが死んじまったからって、それだけでそいつのことが好きであることをやめなくちゃいけないのかい? とくに、その死んじゃった誰かが、今生きているほかの連中より千倍くらいいいやつだったというような場合にはさ」”

 

 

全26章あるが、章ごとに場所も人も変わるので、一章、一章を短編の様に楽しめる。ぱっと開いてその脇道を読むだけでも結構楽しいもんだ。

 

ライ麦畑のなぞ

ライ麦畑でつかまえて』はよく他の作品で引用されることが多く、出てくるたびに「なぜなんだろう」と毎度思っていた。

それを解明をしたく読み進めていくと、ホールデンは社会に張り巡っている制度や、大人が人を騙すこと批難している。それは若者であれば、いつの時代、どの国でも通じる普遍的なものになります。
1951年に発売され、今なお多くのメディアで見かけるのは、その普遍的な物語が若者を象徴する作品として支持されているからではないだろうか。


だが、そんな堅いことを考えなくて良い。肩肘張らずに誰かの日記を読んでいる気持ちで読むだけでも十分面白い。


偶然検索に引っかかったブログを読んでいると、そこにはストーリーなんてものはない。ただ自分の数メートル圏内の生活を書き綴られているだけなのにそれが面白い。と思う人は合うのではないだろうか。

 

 

キャッチャー・イン・ザ・ライ

キャッチャー・イン・ザ・ライ

 

 

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

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