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読書感想など

恋愛小説苦手のススメ『海の見える街』/畑野智美

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「恋愛小説ってなんか苦手だ」漠然とずっと恋愛ものに苦手意識がありました。

ミステリーの中の恋愛やアクションの中の恋愛など、別のジャンル内に内包されている恋愛劇ならば読む事は出来るのですが、純粋な恋愛小説は読む機会はありませんでした。とくに、近年の恋愛小説や映画に見られる「めでたく結ばれたカップルのどちらか一方が事故や病気にかかってしまう」といったテンプレートが出来ていて既にギャグのような扱いになっているので、よりいっそ読む気になれませんでした。

 そんな中、平積みされた小説の中で目に留まったのが『海の見える街』でした。夕方から夜に変わる境界のような色合いに男女が肩を並べているカバーイラストが素敵で手に取ったところ苦手とする恋愛ものでした。いつもなら戻してしまうところですが、新規作家を発掘していた事も重なり「たまには恋愛ものでも読むか」と気まぐれで『海の見える街』を購入しました。

 

あらすじ

海の見える図書館で働く人々の恋愛を描いた連作小説。図書館司書の”本田”はある女性の事を引きずっていたが、しかし何か行動する事もなく同僚や家族と変わらない日々を過ごしていた。しかし派遣の”鈴木”がやってきた日から彼の日常が変わっていく。若くて美人な鈴木だが本の扱いは雑だし常識もなく、我が強いので他の職員とトラブルになる事もあった。だがそんな彼女に惹かれている自分がいる事に気がついていく。

"大人の恋愛小説"の正しい表現

『海の見える街』では20代後半〜30代前半の四人の男女を主人公として複数の視点と季節から語られる連作小説の形をとっている。20〜30代ならば成熟した恋愛劇が繰り広げられていくかと思い気や、四人とも恋愛にトラウマを持ち、恋愛の一歩手前にいる。

カッコイイ・可愛い・美人という外見から入る恋愛時期を越え、「なんかこの人いいな。でもかっこよくないし性格も弱々しい。だけど何で好きなんだろう?」という疑問が湧いてくる。トラウマがあるが故に<好き>という気持ちが湧き上がるが行動する事が出来ず、<なぜこの人の事がすきなの?>を繰り返し問いかける。性や外見ではなく、ある意味純粋な<好き>という気持ちが描かれている。
"大人の恋愛小説"と言われるとどうしても性に比重を置く事が多いけど、『海の見える街』はどうしてこの人を好きなのか? という初期衝動を描くことで恋愛を一周した、もしくはスタートラインに立ったばかりの”大人の恋愛小説”となっている。解説の吉田大助さんの言葉を借りるなら

”あなたが「大人」であればあるほど心に刺さる、最高の恋愛小説なのだ”

です。

 

人物は特筆して特徴のあるキャラクター小説ではなく、地味な舞台、地味な人物です。そこには幸福もあり不幸もある。だからこその現実味を帯びています。

恋愛小説苦手な私でも十分に面白く、これを機に恋愛ものを読んでみようと思わせてくれる物語となっています。恋愛小説が苦手な方にこそオススメです。

 

海の見える街 (講談社文庫)

海の見える街 (講談社文庫)