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読書感想など

羊の問いの答えはあるのか『彼女は一人であるくのか?』/森博嗣

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講談社の新文庫「講談社タイガ」からの一冊。

森博嗣さんは現在もアニメで放送されている理系ミステリーのイメージが強かったが、本作のジャンルはSFとなっている。

http://taiga.kodansha.co.jp/author/h-mori.html#link9784062940030

 

ピュアな遺伝子を手に入れ病気や遺伝的な疾患から解放されたことにより理論上死ぬ事が出来なくなった人類。しかしその代わりに子供を作る事が出来なくなった。一方、ウォーカロンと呼ばれる人口生命体は人間の労働力やプライベートのパートナーとして次々と工業製品として生産されていく。アンドロイドに有機体を加えプログラミングする事でウォーカロンは生まれる。見た目は人間と変わりなく一見して見分ける事ができない。しかし完璧で感情に乏しいという事ではなく、わざと言いよどんだりするなど、人工的にブレを生む様にしている。

 

研究者のハギリは自身の研究内容が原因で命を狙われるが、ウグイと名乗る女性に助けられ難を逃れる。逃亡先で他の研究者と出会いながら、自分の研究が誰にとって不利益になるのか考える。ハギリは対象者に幾つかの質問をする事で人間かウォーカロンか判別をするための「測定方法」の研究をしていた。

 

人間とウォーカロンを区別することはできるのか

人間とウォーカロンの差は一体なんだろう? 「それは魂の有無だ」という観念的な答えもあるだろう。しかし本書では人間とウォーカロンの明確な差というのもがない。人の様なウォーカロン、ウォーカロンの様な人間。研究者のハギリも「おそらくウォーカロンだ」と勘で言っている場面もあり、正確に区別するには「測定」が必要になる。まさにその測定方法がハギリが命を狙われる理由になる。

 

人間は人工的にプログラミングされた物に情をうつしてしまう。ときには生きている動物以上に愛情を注ぐ事がある。(犬型ロボットの供養があるくらいだ)『電脳コイル』というアニメ作品では自分の意思を持つプログラミングされたペット「電脳ペット」を本物と同じように可愛がり涙を流す。今はまだ擬似的な生物が少ないので「あれはただのロボットだ」と物と有機物を明確に分ける事ができる。しかし生まれながらに自分と同じように動き、しゃべり、感情を持つ人工生命体が居ることが普通ならば区別できず、フラットな関係になっていく。そのフラットな関係を明確に区別してしまうハギリの研究は多くの物からすると都合が悪い。一見して人間のふりをしているウォーカロンが正体をばれるのを恐れて犯行を行った様に思えるが、実は人間側にもその測定方法によって不利益になってしまうので、実際にはどちらが関わっているのかすら分からないままストーリーは進んで行く。 

羊の問いの答え

Wシリーズの第1巻『彼女は一人で歩くのか?』ではあくまで世界設定と人間とウォーカロンの関係性とお互いにどの様な立場に立っているのかなど舞台設定としての入口なので、大きな動きがあるとは言えない。しかし起爆剤となるキーワードが散りばめられている。それらがどの様につなげていくのか気になるところだ。

 勘のいい人は人間とウォーカロンの関係性が『アンドロイドは電気羊の夢をみるのか』と酷似している事に気がつくと思う。実際に文章が引用されている事からオマージュしている事は明らかだ。
もしかしたら森博嗣という作家は『アンドロイドは電気羊の夢をみるのか』で最後まで答えが出なかった部分の答えをWシリーズで出そうとしているのかもしれない。

 

彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? (講談社タイガ)