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読書感想など

肉を掘り下げて世界を知る『世界屠畜紀行』/内澤 旬子

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牛、羊、山羊、犬と世界中で食べられている肉はどのように作られているのか?「そりゃ殺してバラして加工しているだけだと」と言葉で言うだけなら簡単だ。だが現実は国によって文化や宗教、肉を食べることに対しての受け答え方も違う。また屠畜を職業としている人に対しての差別に目を背けてもいけない。本書は作者の内澤 旬子さんが2005年前後に世界中を飛び回り、その国々の肉事情をイラストを添えて包み隠さず紹介してくれる。

 
日本の肉事情、世界の肉事情

国によっては動物をつぶすことが生活の一部になっているので庭先で家畜をしめて血を抜いてから次々にバラしていく。その一方、日本の一般家庭では家畜を生きている状態からバラして肉にする事は殆どないだろう。そんな日本の章では芝浦と畜場を紹介している。生きている牛をショック状態にしてからバラすまでの工程の中で腸から糞尿が出ないための工夫だったり、どうすれば効率的に捌くことができるのか事細かに書かれているのが率直に面白い。またちょうどBSE問題があった頃なので血液検査が行われ、検査にパスした肉だけが出荷される。効率化と衛生面がとても日本的だな、という国柄や他国との差が出てて面白い。
アメリカではシステムティックになり誰でもできる仕事として「最低の仕事」と言ってのけ。日本に比べると厳重な衛生チェックをするわけでもない。そんな中でも昔ながらの職人さんがいてその人が選んで捌いてくれた肉は著者曰くとても美味しいらしい。
個人的に一番驚いたのはインド。日本で1日に捌ける量が牛430頭、豚1400頭に対して、1日2万頭を超える。高速で捌いていく職人たちがどんなに急いでも2万頭が正規のと畜場では足りないので8割は非正規の闇屠畜業者で賄っている。インドの人口量を考えれば妥当なのかもしれないが、ヒンドゥー教徒が多い国なのに需要がここまであるのは近代化が進んでいる証拠なのだろうか。
 
このように肉一つ深く掘り下げることででその国の成り立ちや、変化を知ることができる。2005年前後のレポートなので現在とは違っているかもしれないが今読んでも興味深いことが多い。

 
誰にも臆することのない取材の姿勢

取材の中で内澤 旬子さんは誰に対しても「屠畜に対する差別はありますか?」と聞いてしまう。踏み越えちゃならない領域に踏み込んでしまう様は、よく言えば勇気があり、悪く言えば空気が読めない人だ。でもそこを踏み越えているからこそ濃厚で読み応えのあるレポートとなっている。ある国では包み隠さず差別されていたり、差別自体がなかったち国によって千差万別。真正面から向き合う姿に姉貴と呼ばざる得ない。
 
ただ動物が殺されてしまう様を「かわいそう」と思ってしまう人に対して、少しばかり過剰な部分がある。屠畜に関わっている人が差別されることが許せないのは分かるし、私も肉を美味しく頂いている。本書を読んでみるとその矛盾した部分をつっつかれてしょうがなくなる。興味深くて考えてしまう一冊。