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読書感想など

映画『用心棒』総合映画としての時代劇

用心棒/主演:三船敏郎 監督:黒澤明

名作と呼ばれる映画がどうも苦手意識があり、きっけかがない限り手を取らないのですが少し前から古い日本映画を立て続けに見た勢いで黒澤映画の『用心棒』に手を出しました。

 

ジャンル

時代劇のイメージといえば、適役がわざとらしくカメラの前で切られたり鍔迫り合いのせめぎ合いや、二人の侍が交差して数秒後の静寂の後にどちらかが倒れ、雪には一筋の血が。。。といった時代劇のお約束ごとの演出が多く見られ、いわゆる”魅せる”殺陣になっている。

それとは正反対に『用心棒』における殺陣はとても力強く荒々しい。刀を抜いた瞬間にすでに相手を切りつけて、動きが止まったところをさらに切りつけ、一瞬のうちに屍体を生み出してしまう。まるで嵐の様に暴力的で、先述したベタな演出に比べてしまうと虚構ではない現実的な殺陣シーンに見えてしまう。
 
しかし実際のところ殺陣シーンがとても重要ではなく、三船敏郎演じる桑畑三十郎がヤクザ同士を引っ掻き回すといった喜劇的な要素が強い。時代劇ではしばしば殺陣シーンまでが長くて正直途中で飽きてしまうことが多いのだが、『用心棒』に関しては要である殺陣シーン以外もとても面白い。

ある民宿街を陣取る2組のヤクザは、自分が有利に立つために桑畑三十郎をどうしても用心棒につけたいのだが、当の本人はなかなかなびいてくれない。飄々としてのらりくらりとしているのだが裏ではヤクザ同士が同士討ちする様に焚きつけ回る、といった喜劇をベースにして人情話を盛り込み、サスペンスを思わせるシーンもあり、その一部分の要素として殺陣シーンが挿入される。
多くの要素を入れ込んだ総合的な映画として見る事ができる。
 
殺陣シーンはもちろんいいのだが、血がドバドバ出るチャンバラが見たいならば『用心棒』は当てはまらない。もし血がドバドバ出る時代劇映画が見たいならば三池監督の『十三人の刺客』をお勧めする。(稲垣吾郎が悪役でとても似合っているし、個人的に山田孝之が好きな人はドンピシャ)
 

キャラクター

冒頭のシーンで三十郎の歩く背をバックにしてスタッフロールが流れる。そのシーンでは顔は一切映らずに只々背中だけが映されるので「この男は何者なんだろうと」惹きつけられる。
風貌や服装の印象ならばどこか近寄りがたい印象がある。しかしヤクザと初めて遭遇するシーンではあっさりと背を向けてしまう。見た目だけの虚栄なのかと思いきや、情報収集に回りこの宿街をヤクザから解放するべく行動を開始する。

一見、昼行灯にも見えてしまう三十郎だが動き始めたら止まらない。手始めに実力を見せつ為にヤクザの腕を斬り落としてしまった。この三十郎の”静”と”動”の動きがストーリー全体を表している。三十郎が静止していれば流れは停滞して、一転動き始めるとすべての歯車が動き始める。
 
三十郎ばかりではなくヤクザ達もキャラが立っている。
脳みそが足りないヤクザ、背が2mはあるヤクザ、情けないヤクザの倅、拳銃使いの用心棒など主人公に負けないほどのアクの強さがある。
 

好きなシーン

好きなシーンの一つをすでに挙げてしまったが(冒頭のシーン)そのすぐ後のシーンで犬が人間の腕を(これがまたリアル)咥えて三十郎の横通り過ぎていく。このワンシーンのみで、この先には平穏はなくいつ人が死んでもおかしくない世界が広がっているという設定が一目でわかってしまう。冒頭のシーンで現実と映画の境界線に立ち、次のシーンで一気に映画の世界に引き込まれていく。

もう一つ挙げるとしたらエンディングの別れのシーン。世話になった人間に一言、二言話すとすぐに背を向けて歩き始め、『終』の文字が浮かびあがり暗転。余韻に浸る暇もなく現実の世界に引き戻されていく。そっけない感じもするが映画全体が三十郎という人間を表しているとしたら、この閉じ方がとても似合っている。

時代劇のベタな演出が苦手な人にこそお勧めしたい映画でした。 

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