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読書感想など

変貌する獣は何を思うか『犬の心臓』/ミハイル・ブルガーコフ

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ミハイル・ブルガーコフの『犬の心臓』が新潮文庫から発売されました。(正確には「運命の卵」も収録)
ホードカバー版とは翻訳者が変わってしまったのでもしかしたらニュアンスが違うかもしれませんが「笑い」と「恐ろしさ」が入り混じった作品でした。

 

ロシアモスクワに一匹の名前を持たない一匹の野良犬にはがいた。その野良犬は脇腹に火傷をおい、食べる物もなく彷徨っているところを医者フィリップに拾われ、傷の手当てをしてもらい食事も鱈腹食べた。傷も癒えるころには「ここから出て行くものか!」 と鼻息荒く宣言し、気に食わない事があればフィリップの靴をダメにしたり、フクロウを殺すなど我が物顔で過ごしていた。この時点ではまた可愛げのある善良?な犬ではある。
 
ある日、フィリップのもとに死んだばかりの人間が担ぎ込まれる。求めていた物がやっと手に入ったフィリップは直ちに手術を行うべく、犬を拘束して手術台に乗せる。あわやこれまでと犬は思い神様にお祈りをする。だがしかしそこで起きたのは死んだばかりの人間の脳と精嚢を犬に移植することだ。

手術は見事に成功。犬は段々と人間の言葉を喋り出し、身長は伸びて体重も増え始めた。さらには全身を覆っている毛は抜け落ち、服を着きて人間の様に振る舞う様になった。しかし移植元の人間の気質のせいなのか段々と狡猾になり、盗み・騙し・傷つけ・脅し・貶めようとする。


「笑い」と「恐ろしさ」

前半の犬の「お待ちください。あなたの靴でも舐めますよ」といった主人に対しての従順な態度と犬の摂理に基づいた行動や言動が面白いく軽口でテンポ良く読める。後半では犬人間になり言動が粗暴になり上記の様に犯罪紛いの事をしようとする。しかし猫を怖がるなど犬の意識や心理が残ってはいる様だ。ついには自分の権利を主張して結婚までしようとする。その前後半の変貌っぷりに昔読んだ『アルジャーノンに花束を』思い出す。
(はじめはひらがなだけの日記が知能が伸びるにつれて文体が変わっていく)
 
犬の心臓をもち、人の脳と精巣を持つ犬人間はユーモラスではあるが、主人や読者からしたらどの様な行動をするのか予想がつかない。テキストの枠を超えて卑劣なことをやらかすのでは。。と あらぬ想像を張り巡らせてしまう。
 
ハードカバー版をさがしてやっと手にいれた作品が数ヶ月後に文庫化されるとは思いませんでしたが、『巨匠とマルガリータ』の文庫化もされたので入手するハードルは下がったと思います。

 

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犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)

犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)