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読書感想など

『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』/村上春樹

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1997年〜2011年にかけての村上春樹自身や作品についてインタビューを行ったテキストをまとめた一冊。あまりメディアに出ないことで有名な村上春樹だが、さすがに14年間のまとめとなると500ページを超える。
 
インタビュアーは複数人に及び、国も性別も違いインタビューのスタイル(日本語のみ、英語のみ、対面して、メールでなど)も異なっている。主な質問は『作家としてのスタイル』『発売された作品について』『多くの人間に読まれることについて』が多くのインタビューでも共通している。そのためしょうがないことだが、微細な点は異なっているもののどの話でも似通って印象がある。その点は少々残念に思ってしまう。
 
インタビューのタイミングが長編を発売されたばかりの場合が多いため、歴代の作人に関わる貴重な話を聞くことができ、「今度こんな話を考えているんだ」と話していると思えば「これがのちの1Q84になる」と注釈してくれるのでこの話が繋がっているのか、と読了済みだからこそ腑に落ちる事がある。まだ読んでいない作品でも、それに関わるエピソードが聞けるので興味がそそられる。
 

リアルスティックな人間

オウム真理教が関わった事件の被害者の声をまとめた作品『アンダーグラウンド』を作る上で、それ以前とそれ以降では”日本”という国に対する見方が変わり、作品にも影響が及ぼしている。作品のイメージで村上春樹自身が浮世離れしていて奇妙な事ばかりに出会っているという漠然としたイメージがあるが、実際はとてもリアルステックな人間で社会の流れに対してとても敏感である事がうかがえる。
 

古川日出男ファンとしての目線・作家としての目線

上記にもどれも似通っていると書いてしまったが、作家の古川日出男がインタビュアーを務める章がとても濃厚で総合的に見てもここが一番気に入っている。デビュー時の一人称から近年の三人称などの文体の変化の遍歴についてや、日本の文壇について、海外で作品を書いていた時の様子などページ数を割いている分、多彩な質問を投げかけている。
古川日出男さんの質問の仕方は、ファンとして目線、作家としての目線でインタビューをするため、複数の視点からより深い所に潜っていく。ときどきインタビューというよりも雑談をしているみたいでフッとした所で笑ってしまう。
 
”「新潮クラブ」ってありますよね。あそこに閉じこもって集中して書きました”
”ーーあそこって幽霊が出るところじゃなかったですか”
”幽霊は見たことないな。僕は早寝早起きだから(笑)”

 

 
全く関係ないのだけど、何度も繰り返される質問よりも、何気ないやり取りが記憶に残る。