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読書感想など

あなたは世界が終わるまでの七日間で何をする?『世界の終わりの七日間』/ベン H ウィンタース

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終わっていく世界

10月3日水曜日、地球に小惑星2011GV通称”マイヤ”が衝突をする。それによって予想される未来は恐竜が歩んだ歴史と同じだ。それを知った人々はSNSでイイねやシェアをしていた。だがそれが現実のものになってくると、長年温めていた「やりたいことリスト」を引っ張り出して仕事を放り投げ出してしまう。
 
仕事を放り出したことで電気の供給は止まり、水やガスまで止まる。スーパーやコンビニには商品は強奪される。そんな中、刑事を続けていた主人公パレスは殺人事件や人探しを請け負う。通常であればすぐに解決できる事件でも監視カメラは止まり、データベースにもアクセスできない、科学捜査もままならないという条件の中で証言を集めて事件を解いていく。というのが1作目、2作目までの簡単なあらすじで、ついに三部作の最終巻である今作では衝突まで一週間と迫っていた。
 

初めて自分のために行動をする

刑事をクビにされたパレスはあと一週間で何をするのか?
コネもなければ権力もない、避難先を探して軍の基地を目指すのか、食料を強奪するために誰かを襲うのか、小惑星を回避する手段を模索するのか、やり残した事件を解決するのか。
 
パレスにそんな事そしている時間はなかった。一刻も早く”妹”を探し出さなければならない。
ケータイで連絡しようにも電気は供給されていないし、インターネットに繋がらないので Facebook で[イイね]も Twitterで@sisterも出来ない。しかしそれでも妹の事を諦めない。
 
ある人物がパレスに話しかける。
 
”あんたは何を見ても妹を思い出す”
 
世界が終わるまであと七日間。その七日間をどう過ごすのか、そのあとどうするのか、という焦りや恐怖はなく、ただ唯一の家族のために、世界が終わるからこそ妹に再会する必要が有る。
前作までは職業的に粛々と他人のために事件を解いていたが、今回初めて終わる世界でパレスは唯一の家族の妹のため、ひいては自分のために奔走する。
 

 

主人公の不透明さについて

しかし自分のために行動する事で描写が内側に入っていくに関わらず、パレスの心の動きや感情が全く読む事ができない。確かにパレスは冷静で感情的ではなかったが、ユーモアはあって人間的な面はあった。今作でも泣いたり、恐怖はするのだが、動作や台詞による表現が少ない。 ”私は両手で顔を覆い、涙を流した” 程度にとどめて、感情や内面がそぎ落とされている。
 
では、失った分を何が埋め合わせたかというと『幻想と過去』だ。
時折パレスは今はいない同僚が話しかけてくる幻聴が聞こえ、妹と過ごした過去が頭に浮かび上がる。それは散文的でどこか悲壮を帯びている。
しかしそれを懐かしんだり、今に幻滅して落ち込む事がない。ただ現実を受け入れて打破する手段を模索する。
 

シリーズ最終巻として

前作までは寂れていく街の中には悲壮よりも騒がしさがあったにも関わらず、今回は序盤から最後までひっそりと
静かでミニマムな場所でミニマムな構成になっている。それにより前作を読んでいた人からすると不満があるかもしれない。
だが、個人的には終始派手な展開もなくひっそりと進んで行く物語がこのシリーズに相応しい最終巻だ。
パレス自身が何かを失うごとに、小説から刑事や探偵といった要素が抜け落ちていく、そして抜け落ちた結果、最終巻で純文学的に落ち着くとこはむしろ必然的に思えてならない。シリーズを通して読んでいるからこそじんわりと染み込んでくる。

 

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 



前作までの感想は↓
 
地上最後の刑事〈アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞〉
 

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カウントダウン・シティ〈フィリップ・K・ディック賞受賞作〉 

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