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読書感想など

夢の不条理感に脳みそがジンジンする。『パプリカ』/筒井康隆

パプリカ (新潮文庫)

 
筒井康隆さんの代表とされる作品『時をかける少女』は細田守監督によってアニメ映画されたことで若い世代にも広く知れ渡り知名度が高く、また最近では『旅のラゴス』が書店でプッシュされている。それにつられてかその他の作品も平置きされるようになり、『筒井康隆コレクション』『モナドの領域』など80歳を超えても第一線として活躍なされている。

時かけと同じように今敏監督によって映像化された『パプリカ』は同じSF作品なれど、全く方向性の違う悪魔的な魅力に溢れており、今回は同名の原作である『パプリカ』を読みました。

▼あらすじ

主人公の千葉敦子は優秀なセラピストとしてメディアで囃し立てられる裏では、他人の夢の潜入する悪夢探偵パプリカとして精神病をを治療するとして治療を施していく。千葉の所属する研究所内では権力争いが起きている中、研究員の一人、時田浩作の開発した最新の機器《DCミニ》が盗まれたことで淫靡であり恐怖が渦巻く夢へと堕ちていく。
 

▼夢と性・愛のつながり

主人公の千葉/パプリカはとても美しく、男性はその美しさに惹かれ、女性は嫉妬する。男性同士はパプリカを取り合っているような構図が明示的にされ、味方同士であるにも関わらず誰もがパプリカの事を惚れている。それが夢の中ではとめどなく欲望となって暴走する。
 
作品内では性的な描写が多くあり、それは夢と性や愛が密接に繋がっている。
パプリカは多くの男性に惚れて、敵側の人物にも恋に似た気持ちを覚える。その惚れ易さは単純にパプリカの性質なのかもしれないが、夢の中に意識していない人が登場する事でその人の事を気になってしまうという体験があると思う。惚れ易さはそこに繋がっていると思う。
 
 

▼夢の崩壊

夢をメモをしていると描写はいきなりシーンが切り替わったり、言葉がうまく出なかったり、うまく動けなくなる、思い込むなど現実ではあり得ない世界であるにかかわらず、その場では何の疑問にも思わない。
試しに自分の夢のメモを引っ張ってみる。
 
”夢を夢と認識しても夢から逃れることができない。いつもと違う席に座ると隣はむかしの友人で、そういえば前は隣席にこいつが座ってたなと思い、別の友人だったことを思い出すがそれも実際は全く異なる。夢と認識しても夢の中で起こる事を現実と重ね、そういえば現実も同じだったなと思い込ませてしまう。
仕事場は多くのコートとカバンが並んでいて自販機もあった。(数が少なく手の届かない位大きい)学校も同じく席を並べると昔の友人がいて、そういえば現実の仕事もこいつが隣席だったことがあったな、いやあいつだったかと間違えるパソコンを二台立ち上げてネットで検索しようとするがローマ字入力が出来ない。ずっと英語のまま。(ここは夢か。と検索しようとしていた)
そして不意に夢から覚めるような感覚があった。説明のつかないここから切り離される様な感覚。検索するのはやめて夢を夢だと確定させることをやめたら落ち着いた。”

 

メモを読み返しても全く意味不明ではあるけど、その意味不明感がとても楽しい。
 
『パプリカ』でももちろん夢のシーンがあり、夢を小説として文章化しても、そのおかしさが理路整然される訳ではなく、より混乱を極める。普通の夢の描写ですらクラクラするのに、様々な人間の夢が混濁して、シーンの切り替わり、セリフの不明瞭感、安定しない床や壁、深層心理に隠されたトラウマ。とめどないイメージが大量に流れて混んできて脳みそがジンジンとしておかしくなりそうだ。どこまでが夢でどこまでが現実なのかわからなくなり、エンディングですら「本当に現実なのか」とわからなくなる。
 
序盤から中盤にかけて夢というものを医療的な分析をすることで読者側に世界観の説明がされ、同時に研究所内の権力争いなど不安の種が幾つも撒かれている。中盤からそのスピードが徐々に徐々に上がっていきもう止まらない。1993年に発売された小説なれば全く古くさいと思わなかった。
また、この作品を映画化した今敏監督を改めて恐ろしいと思ってしまった。
 
読了後、夢を見るのが怖くなる。
 

 

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