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読書感想など

広大な森に潜む闇を深く濃い「ドライ・ボーンズ」

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アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞作品が先日ハヤカワ文庫から出版されました。
全く初めての方でしたが最優秀新人賞ということで購入してみました。

 

ドライ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ドライ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

▼あらすじ

山間の町で発見された身元不明の男。どこの誰で、どうして、誰に、と捜査する中で連鎖するように起きる事件と新たな遺体。周りは森に囲まれ古くから住んでいる住民達はどこかよそ者に心を開きにくく協力的ではない。森の中には法や一般社会から逸脱した人間が住んでおり違法薬物の温床となっている。
 

▼事件の舞台

舞台になった町をGoogle mapで見てみると、広大な敷地に対してぽつんと一本の道路が通っており、周りに有名な観光地もなくピンと来ない。いわゆるアメリカの田舎ではあるのだが、陽気でノンビリとしたオープンされたものではなくとても閉鎖的。
牧場が多数あり、鹿追が行われ、トレーラーハウスが自然と物語に組み込まれている。そしてそれを助長するかのようなこと細かい描写力に長けている。一つのことをさらに踏み込み二つ三つとより深く描写することでより現実度が増して閉鎖的な雰囲気に息がつまる。
 

▼主人公

主人公ファレルは地元に精通しており、知人やかつての友人との接触にはやりにくさと過去の苦さがある。
そんな彼自身は保安官の言いつけを守らずに、「これが俺のやり方だ!」と言わんがばかりに逸脱した行動をとる。(疑わしき人間との格闘、住居進入、報告しないなどなど)
大胆ではあるが、時折見せる繊細でどこか投げやりな行動は、自分が破滅へ向かうような傷をつきながらも捜査を続ける。タフと繊細が入り混じる彼自身の行動にも目を話すことができない危うさがある。
 

複数の謎

トリックを用いたミステリーものとは少し異なる。謎が最後の最後にひっくり返される感覚がとても気持ちがいいものだけど、本作品においては人物像や周辺の環境に重点が置かれているので、『どんなトリックなのか』ということに期待していると肩透かしされてしまうだろう。
 
山間の町の暗い側面が見え隠れして、都会を舞台とした物語には見られない闇がある。それは純粋で深く濃く暗い。明かり一つも持たずに夜の森の中、手探りで真相を探し回るファレル。彼が時折見る過去の記憶が現在と交差するとき一瞬の光が差し込める。
 
大仕掛けのトリックではなく、粛々とした現実寄りの大人のハードボイルドミステリーに仕上がっている。
アメリカドラマや映画が好きな方にお勧めしたい一冊です。