フィリップ・K・ディック短編集など
その日は映画を見るために新宿バルト9へと向かった。
あまり行った事がない映画館だったのでチケット売り場が長蛇になっている事に驚いた。いつも行っている映画館は昼でもそこまで並ぶ事がない。地域差なのか、作品数の差なのか、単純に売り場が狭くてチケット販売機の数が少ないせいなのかは分からない。
10分ほどして自分の番が回ってきたので19時からの「パワーレンジャー」を選択。まだ時間に余裕があるので席もそこまで埋まっていない。料金払いをする為に、クレジットカード払いを選択。クレジットカードを専用機にスライドさせるが、読み取ってくれない。
裏表を試してみるが読み取らない。逆さまにしてみるが読み取らない。もう一回最初の向きで試してみるが読み取らず、「お客様のご使用のクレジットカードご使用できません」といった内容の文言が表示されるのみ。現金で支払いチケットを受け取るが、足元がグラグラする。
・限度額いっぱいに何か購入しかた→これといって何も購入していない。
・カード情報が流出したか→ないとは言えない
・不明な動きがあればカード会社から連絡があるのでは→カード会社も絶対ではない。
・確かクレジットは一度止めたら再発行するのが面倒だったはず→背に腹は変えられない。
行き先も決めずそんな事を考えていた。さっきまで映画を楽しみにしていたのに一気に急下降。逆さまだ。ぐらりぐらり、気温の暑さとは別の体内から汗が流れ出てくる。腹も痛くなってきたので堪らず三越のトイレへと駆け込む。
古いビルなのでこじんまりとしているが、きれいに整備されているトイレに感謝しながら、「さっきのは単純にバルト9が取り扱いを止めていたのでは」という楽観的に捉えようとした。しかし確信が持てない。使用できるかどうかはもう一度使ってみるしかない。
”とてつもない恐怖ーーー!”
私もそうだよ名も知らぬ人よ!
レジへ向かい、クレジットカードを差し出す。数100円をクレジット払いというのも心苦しいがこれしかない。カードを読み取り、番号を打ち、数秒待つ。「ブックオフのおじさんお願いします」とブラックエプロンのスタッフさん相手に祈ってると決済があっさりと通った。
読み通りバルト9ではカード使用の扱いを止めていたようだ。
クレジットカードは問題なく使用することが分かり、このディック的な世界から抜け出すことができた。あれだけ色が失われていた世界が極彩色に見える。私は暖かいお茶を口に含んでから映画館へと向かった。
手持ちのフィリップ・K・ディック著書をまとめて読んだ。
幾つものシチュレーションで繰り返される人間と非人間の境界の曖昧さ、というモチーフ。アイデンティティの崩壊を垣間見た人物の悲喜交々は現実とよく似ている。
- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 文庫
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