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読書感想など

【小説】ヴァリス/フィリップ・K・ディック

小説の八割近くを占めているのは、キリストや、聖書、釈迦に関する神学についてだ。それに加え主人公ファットがシマウマから受信した電波系神学がMIX!

宗教に関する下敷きがないため話の大半は理解できなかったので、その点について何かを期待しないでいただきたい。むしろ訳者の山形氏のインタビューを読んだ方がいい。

https://mayucok.wordpress.com/2017/01/22/w_ymgt/

いわゆるヴァリスは挫折本と呼ばれる類いになるらしい。それもそのはず、上に書いたように神学が占めているからだ。
聖書に関する知識を持っていたとしても、電波文章が挿入され、ごった煮になる。そのため聖書と電波の境界が曖昧になった怪文書ができあがる。
僕らはポストに投函された怪文書と見分けがつかない物を数百ページも読まされるのだ。

それでもなぜ読めたかといえば、先にあとがきを読んだからだ。
訳者の山形氏は心が折れかけ、挫折の一歩手前に差し掛かった読者のために、あらすじを乗せてくれた。釈迦の手のひらで転がされる悟空のような気分だが、これが大いに助かった。この先に展開があるのだと。

SF作家のフィルが電波を受信した自分を「ファット」と呼び、まるで別人のように描写していく。 自分自身のことなのに
「ファットは気が狂っている」
「ファットはキ○○イだ」
と冷静な視点で観察し、仕舞いには友人のように振る舞う。
 読んでいる最中に松本次郎氏の「フリージア」が頭をよぎった。作中では明らかにされていないが、過去に出会った人物や死んだ人物が、実際に生きているように振る舞い主人公と対話する。
 二重人格ともまた違う、恐怖や悲しみが生んだイマジナリーフレンドと思われるが、ヴァリス終盤にはその考えをも変えてしまう展開がある。。

「こんな電波な話を書く、フィリップ・K・ディックは本当にあちらの世界に行ってしまったんだ……」と思っていたが、『自分自身を冷静に分析している自分』という構成になっているため作者もまたこの作品自体を冷静な目で見ていたのかもしれない。

世界を一変させてしまう出来事よりも、個人の心を揺るがしてしまう出来事。個人の裡へ裡へと深く潜っていく。
熱にうなされて見てしまう夢。
深夜にふと目を覚ましてしまう空白の時間。
そのような体験ををヴァリスは与えてくれた。