Page×3

読書感想など

【エッセイ】猫を棄てる 父親について語るとき/村上春樹

今週のお題「読書感想文」

「海岸で棄てた猫が、自分たちよりも先に家に帰って来てた」

そんな少し不思議な父との思い出をきっかけに、著者の父親がどの様な人生を送ってきたのかひも解いていく。

生前、父との折り合いが悪く作家になってからも数十年会わず、死の間際にぎこちない会話をするだけであった。

決して仲が良かったわけではない。そんな著者がなぜこのような文章を書いたのだろうか。

亡くなっても消えることのない心の澱。亡くなったからこそ、ぶつける相手もおらず、行先のない父という存在。

自己治療のために文章という形にして切り離したのではないだろうか。

(この辺は『村上春樹河合隼雄に会いにいく』を想起させるものがあった)

父に対する視線はごく冷静で、そこに感謝や親愛といったものは感じられず淡々としている。

だが、文章に起こさなければ決して残らなかったであろう、たった一人の人生。

それを本という形にする事は文筆業としての想いの表現なのだろう。

ごく個人的な文章であり、表に出さず胸の裡に温めておくものであるを読んでどうするんだ、と思っていた。

しかし読み終えてみれば、自分と親の関係や今後のこと、過去のこと、親の若い頃の話なんて聞いたことが無いなと色々な考えが頭を巡った。

この本を分析して、今までの小説にどう影響しているとか、村上ワールドのルーツはこれだ、とか。

ちょっとそういったことは他の人に任せるとして、本を深く探るよりも、本によって自分の奥底を深く探ってみたくなった。

f:id:dazzle223:20200813174537j:plain