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読書感想など

逃れることのできない過去『眠りなき狙撃者』/ジャン=パトリック マンシェット

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眠りなき狙撃者 (河出文庫)

著:ジャン=パトリック マンシェット 

引退を決意し、新たな世界を希求する殺し屋に襲いかかるさまざまな組織の罠、そしてかつての仇敵たち―「現代フランス文学の極北」といえるほど、限界まで贅肉をそぎ落とされ張りつめた文体が描く、荒涼たる孤独と絶望のドラマ。ロマン・ノワールの旗手・マンシェットの遺作にして、最高傑作。ピエール・モレル監督により映画化。

 

 

文体、構成

難しい言葉も構成もしていないので読むのが苦ではないが、文章の筋肉を落としてほとんど骨組みなので一行見落とすと展開がガラリと変わっていて、あれ?どうしてこうなったんだ、と読み返してしまう。
『一行たりとも読み飛ばせない』という紹介は確かにあっている。
 
男はフェリックス・シュラデールの頭にHK4を向けて引金を絞った。閉ざされた部屋でピストルが轟音を上げた。フェリックスの頭が炸裂し、頭蓋の破片がさまざまな方向に飛び散り、仕切り壁や窓にぶつかって乾いた音を立てる。フェリックスの死体はごとりと横倒しになった。無煙火薬の匂いが空中に漂う。

 

主人公の心と重なるような乾いた文体。セリフと動作を最低限描いているのみでレトリックや装飾があまり見当たらない。
最小限にすることで主人公の悲しみや過去の苦い経験や現在の状況を味気なく表しているようだ。息苦しい。
また、脚本、演出ノートの様にも見える。
 

人物

主人公は引退を決意した主人公。
彼の周りを囲う登場人物には殺される恋人、狂ったような愛人、故郷の親友、彼を殺しの世界に誘った黒人、かつての雇い主。
命を狙う殺し屋達はたった数行しか描写されてないが、個性的で少ないからこそ全て詰め込まれていてとても濃い。
彼に巻き込まれたことで夫を殺された愛人はどこかいつも酔っているようで狂気にあふれている。彼のことを愛しているようで憎んでいるのか、また愛おしくて慰めているようでもある。
 

逃れることのできない過去

未来を語るならば前提として過去と今を語らねばならない。それを表すように彼もどこか遠くの誰も知らない場所へ逃げ出そうとしたが、過去の因果が追いかけて今を侵食してきた。
 
ラストシーン、そして作品全体に漂う寂しくピンと糸が張っていてドン詰まりの状況から逃げることのできない。