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読書感想など

汚染されたニューヨークを闊歩する殺し屋「Mr.スペードマン」

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Mr.スペードマン (ハヤカワ文庫NV)

著:アダム スターンバーグ

【映画化決定! 超異色クライム・ノヴェル】 俺の名はスペードマン。ゴミ処理人だ。標的の名前だけ教えてくれればいい。そいつが死ぬ。それだけだ――テロ攻撃で汚染され、住民の大半が立ち去ったニューヨーク。残った人々は仮想世界に引きこもり、それすらできない貧乏人だけがうろついている。そんな街で殺し屋稼業をする俺は、ある日18歳の女性の殺害依頼を受けた。子どもは殺さない主義の俺だったが……荒廃した街に生きる一匹狼の活躍!

 

 

ルールに従う男

Mrスペードマンは殺し屋として守るべき自己のルールを持ち合わせている。
殺す相手の背景を聞かない、動機も事情もそんな事は知りたくもない。名前だけでいい。俺をのことは、銃弾のようなものだと思ってくれ。そんな事には干渉をしたくない。男を殺す、女も殺す、だたし子供は殺さない。そんな男のルールに抵触するような出来事が起きる。
ルールがある男にはありがちな展開だけど、そうこなくちゃ面白くない。
 

男は語る。なぜ殺し屋になったのか。

ただ単に殺し屋と名乗るだけの主人公ではなぜ子供を殺さないルールを設けているのか不明のままだが、主人公はどんどん語る。なぜ殺し屋になったのか、その前の過去は何をしていたのか、家族はいるのか、理由付けをする事でMrスペードマンがどのような人生を追体験することができる。表面だけの殺し屋ではなく、内側も見ることができる。
 
 

設定の面白さ

テロによって汚染されたニューヨーク。仮想世界に入れるネットワーク(リムノスフィム)とベッドが実用化され、衰退した世界から逃げ出すように金持ちはタップイン(リムノスフィムにアクセス)をして仮想空間で夢を見る。タップインは何時間、何日、何年も可能だがその間は眠ったままなので自然と身体が衰えてくる。そこで人を雇い眠ったままの身体に栄養剤を入れたり服を着替えさせたり身の回りの世話をさせる。一方、貧困層は富裕層と比べると質素な粗悪品ながらチャイナタウンの店で数時間単位でタップインすることもできる。
 

インターネットキオスク

タップインの出来ない低所得者公共事業的なインフラとしてインターネットが残されている。そこはエアポケットであり、隙間。反体制的な市民同士が落書きしあう最も自由な市場となっている。(この設定は今のネットと同じだ)
 
 

宗教とネット

物語のキーとして伝道師ハローという人物が登場する。
彼は宗教者として絶大の影響力を持ち、今回の話にも関わってくる。単純に現代を舞台にした殺し屋の物語でもできそうだが、かつての輝きを失い衰退したニューヨークを舞台にしてリムノスフィムという独自設定を加えることで魅力的なストーリーとなっている。
 
ただ設定説明などにページを割いたせいか後半が駆け足気味になっている印象。
続編があるらしいので是非発売してほしい。
 

気に入ったセリフ

俺は依頼者や標的の事情など知りたくない。
俺は銃弾のようなものだ、と。