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読書感想など

戦慄のハッピーエンド『ナイトクローラー』

ブラック会社が創立された。

皆が寝静まった夜、毎日のように車を飛ばして働いている。警察の無線を傍受して事故・事件現場に駆けつける。事件解決のため? 救助のため? 彼らはそんなことしない、彼らはその凄惨な現場を這い回り被害者・加害者にカメラを向ける。貪欲に生々しく死の匂いと血を求めて駆け回るハイエナ”ナイトクローラー”だ。

 

ルイス・ブルーム(ルー)は定職につかず、金網などの鉄や銅を盗みそれを売るなどして日金を稼いでいた。ある日の深夜、事故現場に居合わせていたところカメラを持ち事故現場を撮影するナイトクローラーに遭遇する。悲惨な映像は売れると知ったルーは自転車を盗んだ金でカメラと無線を手に入れ、その日から警察の無線を盗聴して事故・事件のビデオを撮影してテレビ局に売り込んでいくこととなる…

 

ルイス・ブルームという男

ルーは高卒で会社に就職することもなく、その日その日で職を変えるような生活をしてる。過去は語られないが、どの様にして出来上がったのかセリフの端々から想像するしかない。

(以下想像)決して裕福でない家庭で育ったと考えられる。大学に進学することも就職することも叶わず、仕事を得たとしても長続きせず盗人に落ちた。年中金欠の生活から抜け出せず、ナイトクローラーとなったのだろう。一人の就職難民と見ると同情してしまう。また自分よりかなり年上の女性に惹かれているのはマザコンの気があるのか、幼いころ母を亡くしたのではないだろうか。

 

最初はルーに対して真面目で無邪気な印象を受けた。というのも「意識高い」言葉で自分を売り込んでいたり、事故現場でカメラアングルに拘るなどその姿に子供の無邪気さを感じてしまった。彼は学習能力は高い様で、仕事をスポンジの様に知識を吸収して成果を上げていく。

 

視聴率を求めていく

その内に良い画を求め、違法な手段で家宅侵入や遺体を撮影したり過激な画を撮影する。

それは勿論おぞましい行為であるのだが、「もっといいものをそうすれば事業が成功する。初めて自分の天職を得た」という高揚感がこちら側にも伝わってくる。仕事を繰り返すごとに評価は高まり同業者にも目をつけられるようになる。初めて自分という存在をみんなに知ってもらい、認めてもらう。そのことに快感を覚えていく。その刺激的な画にルー自身、周辺の人間にも伝播されていく。邪悪が広まっていく。

 

はじめは無邪気に見えたルーが段々とその邪悪さが滲み出てくると。合理的かつ冷血に事業を拡大していく。

正しいとか悪いとか判断のできない、自分というものがない人間が浮き彫りになってきた。「スキルアップして成長しろ」など意識高い誰かの言葉を借りて演じることを繰り返していたのではないだろうか。(もしくはその格言やノウハウに心酔している?)

ルイス・ブルームを演じるのはジェイク・ギレンホール

ナイトクローラーを見てから出演者を調べてみると以前見たことのある「プリズナーズ」「複製された男」に出演していることを知り、これには驚いた。というのもこの三作品は方向性が全く違い、体格も性格も違うので調べるまで同一人物だとは気がつかなかった。

 

泣き要素は全くないのですが、その恵まれない環境からの”戦慄のハッピーエンド”を見てると個人的に涙を誘ってしまう。

 

nightcrawler.gaga.ne.jp