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読書感想など

100%恋愛小説『ノルウェイの森』/村上春樹

 

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

 

 

あらすじ

飛行機がハンブルク空港に着くとビートルズの「ノルウェイの森」が流れ始めた。過去の出来事19歳の頃を思い出しワタナベは激しく混乱した。親友キズキの死。そしてかつての親友の彼女直子との再会が喪失へと加速しはじめる。繰り返される死と性。彼女を求めた先に深い森が待っていた。

 

読むまでの印象

ノルウェイの森』は有名な作品ですが実際に読んだことありませんでした。それまで話に聞いた漠然なイメージでは、「親友の彼女に好意を持ちながらそれをひた隠しにしていた主人公。しかし親友はあることをきっかけになくなってしまう。親友を失った喪失感と共に彼女への思いが抑えきれなくなってしまう。罪悪感と恋心に揺れ動く心…」と思ってました。
 
実際に読み進めるとある面では合っていましたが、ある面ではかけ離れていました。
純粋な恋愛小説とは言えません。登場人物が全員すこしねじれています。「ねじれている」といっても狂気を孕んでいるわけではありまでん。その人にとっては自然な事でそれを個性、もしくは病気と呼びます。
 

<ワタナベ>と<直子>

『羊をめぐる物語』『ねじまき鳥クロニクル』『世界の終わり…』はファンタジー色が強い作品ですが、『ノルウェイの森』は完全にリアリズムの物語です。文体は確かに今までの作品と同じですが、デビュー作の『風の歌を聴け』や『国境の南、太陽の西』に近い印象です。
 
親友キズキの死と共にワタナベ、キズキ、直子の三人を繋いでいた線は切れてしまった。しかし偶然再会してしまったワタナベと直子の線は再び繋がってしまった。それはお互いにとってヒビの入ったダムのように少しずつ漏れ始め、決壊しかけてしまう。ワタナベは直子からの電話を待っていたり、手紙を送ったり、確かに直子を愛していて彼女を求めているのですが、そこに「愛」や「恋」に心が喜んでいる事が感じられない。「ワタナベは本当に心から直子を求めているのか?」と疑ってしまうほどです。
 
唯一確かな事は直子はワタナベの事を愛していない事です。直子は言葉にもしないし小説内で直接的に描写もされていないですが死んだキズキの事をいつまでも思っているようです。ワタナベはいつまでもかなわないのです。
 
”そう考えると僕はたまらなく哀しい。何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ。”
 

<ワタナベ>と<緑>

ワタナベと同じ授業を選択している緑(ミドリ)と知り合った事により、彼の生活が徐々していく。
遠くな離れてしまった直子と対比するような言動、性格、ルックスの緑はいつの間にかワタナベの生活に必要なものになってしまった。
 
”「そんなくだらない傘なんか持ってないで両手でもっとしっかり抱いてよ」”
 
直子を愛しているにもかかわらず、しかし直子を愛している感情とはまた別の感情で緑の事を愛してしまった。
緑のとってワタナベは、直子にとってのキズキと同じ存在になってしまう。
 
個人的にどうしても緑に対して気持ちが寄ってしまいます。
好きになった人にはいつも何処かの誰かの事を思っていて真に自分の事を見てくれない。その気持ちはとても痛々しくてワタナベにとって死んだキズキの事をいつまでも思っている直子と同じなのです。
 
 

ノルウェイの森』という物語

ノルウェイの森』は全ては主人公ワタナベの視点で書かれています。なので直子や緑、その他の登場人物の独白や内面の描写はありません。それにより物語の細部まで真実なのか分からないまま終わります。
 
果たしてワタナベは「信頼できる語り手」でしょうか?そこを突っ込んだらどの物語も信頼できないですが、『ノルウェイの森』自体は物事を理解するために37歳のワタナベが19歳の出来事を思い出しながら書き出します。自身の体験とはいえ、果たして十年以上昔の記憶は確かなものなのか、彼の物語に出てくる人物は本当にいたのか、その不必要と思われる描写は当時の思い出を詳細まで再現をしているのか、作り上げているのか不明です。
 
また、不思議な事にワタナベから親友であるキズキに対しての描写というものがほとんど見受けられません。わざと考えないように他の人間を細部までページを割いて、まるで避けているようです。
誰もが愛を抱え、誰かに恋をします。彼も確かにそれを抱えていますが果たしてワタナベという人間の核はなんなのか、と少し怖くなります。ただワタナベの抱えている「誰かを求めている心」や「自分を理解してくれる人だけに理解されればいい」という考え自体は少なからず共感するものがあります。
 
有名な作品だけど手に取った事なのない方にお勧めします。
確かに理解しがたい事もありますが肩を張らずに読んでほしいです。

雑談

ワタナベの出身地は神戸。『風の音を聴け』の主人公も同じく神戸出身の為、関連あるのでは?と思ってしまうが直接的には関係ないと思うが、ある種のパラレルワールドなのだろうか。