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読書感想など

再構築される無数の自分『エピローグ』/円城塔

 

エピローグ

これを人に勧めるのはすごく勇気がいる。
自分の理解が追いつきそうで追い付かない。触れそうで触れられない。果たして登場人物やあらすじをどう書けばいいのかわからなくなるが、理解できる部分を書いていく。
 
宇宙を舞台に”連続殺人事件”が起きて刑事/探偵が登場するがトリックや動機、被害者な被疑者といったミステリー小説として読んでると痛い目をみる。だからと言ってどう読んでいいのかアドバイスが浮かばない。ミステリー、SF、ラブストーリー、サスペンス、どのジャンルにも当てはまるし当てはまらない。

言語によって物語が作られ、さらにキャラクターを作る。ストーリーの起承転結があり風呂敷をたたんで終わる、それが通常の小説の形だ。しかし『エピローグ』では徐々にその小説の形のストーリーが崩れていく。”言語”が暴走して”物語”が作者不在のまま勝手に動き出している。
物語は完成したら、もうそこから変えることができない。完成に至るまでに作者はプロットを作り、パターンをいくつも考えて、順番を入れ替えて、キャラクター設定を変更するなどカット&ペースト&コピーを繰り返して、幾つものバージョンを経てやっと完成する。それが完成された小説だ。一度出来上がった物語を巻き戻してIF世界を語る事はまず見られない。
『エピローグ』はそうはいかない。小説が完成するまでの遍歴、枝分かれしたパターン、並行する世界などなど物語のあらゆる可能性が無限に混ざり合っている。登場人物の職業が変わり同一人物の死体が積み上がる、改変による改変が続いていく。その中でもたまたま浮き上がってきたセリフやシーンを描写して、登場人物は「ああ、今度は探偵なのか」と宇宙では無数パターンの自分がにいる事を知っている。
 
分解されていく物語、言語によって構成されていく物語、登場人物。リセットされ再構築され無数に存在する自分がどこかのストーリーに乗っている。自分という存在が固定されず次の瞬間には別の顔になり性別、職業、とりまく関係が変わっていく。自分に置き換えてみるととても恐ろしい。
 
これを全て理解できて自分なりの解釈をちゃんと説明出来る人は気持ちがいいだろうな。
 

 

エピローグ

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