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読書感想など

【小説】エロス/広瀬正

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「もしもあの時、別の選択をしていたら」からはじまるパラレルヒストリー。
 
歌手であるみつ子はインタビューをきっかけに18歳の頃の自分を振り返る。
恋をした男性とは実らなかったが、歌手としては大成した。それはあの日あの時、映画を見に行くことを「選択」したからだ。そうでなかったらヌードモデルとして日金を稼いでいただろう…そう思い返していると突然目の前にその男性である慎一と偶然が重なり再開をした。
 
会えなくなったあの日から今までどの様な人生を送ってきたのか、現在と過去が交互に語られる。
 
しかしそこに「もう一つの過去」が挿入され、選ばれなかったはずの歴史が描写されていく。
そこではヌードモデルとして送る日々を過ごしていたみつ子の前慎一が現れ、文字通りさらっていった。「きみはぼくのお嫁さんになるんだ」
 
男女が結ばれ、身分の違いに周囲から反対されながらも結婚することが出来た二人はつつましい生活ながらも協力しながら生活を送っていく。しかしそこには戦争の余波が押し寄せてくる。
 
現在と「もう一つの過去」が交わることがなかった。しかし奇妙な一致をし始める。それはタイトルにもなっている「エロス」。ここは実際に読んで確かめて欲しい。
 
風が吹けば桶屋がもうける、という言葉通りに一つの事が連鎖して他者にも影響していく。みつ子の選択が、ほんの一言で大きく歴史を変えてしまった事が示唆されているという点ではSFではあるが、それ以上に男女の恋物語として面白く、当時の流行や風習、金銭感覚、戦争によって逼迫していく家庭など昭和文化を体験することが出来る。
 

 

エロス―もう一つの過去 広瀬正・小説全集〈3〉 (集英社文庫)

エロス―もう一つの過去 広瀬正・小説全集〈3〉 (集英社文庫)