【小説】鏡の国のアリス/広瀬正
ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」では、左右反転した鏡の国に迷い込んでしまう。右は左に、左は右となり。文字も反転して鏡文字になってしまう。その鏡の国でハンプティダンプティなどの奇妙をより際立たせたキャラクターと出会う物語である。
男湯に浸かっていたはずが、気がつけば女湯に浸かっている。初っぱなから豚箱行きか、と思いきやおおらかな時代なのか出歯亀扱いで難を逃れた。
だが、主人公の目の前に広がるのは、文字やルール、人間の身体に至るまで何もかもが反対になった鏡像世界。彼は戸惑うが左右反対になってしまった以外のことは変わりない。(第二次世界大戦で日本が勝っている様子もない)
ただ、彼の家やおろか、自分を知っている人すらいない。鏡像世界では彼の居場所はなかった。
今でいう異世界ものの要素も含まれている本作では、なぜ鏡に国に迷い込んでしまったのかまで言及している。どちらかといえばオカルトよりではあるが、妙な説得力があり思わず膝を打った。(実際に読んでお確かめください)
ただ単純に「鏡の国に入ったぜ。いえーい」で話が進むわけではなく何を持って鏡の国と言えるのかNHK教育番組風に説明が入る。
お勉強めいているが「ああ、なるほどこれが鏡にうつるという事なのか」と普段なんら不思議に思ったことのない鏡の不思議さについて説得させられる。
「鏡像世界では彼の居場所はなかった」と前述したが、これは居場所を作るための物語とも言える。異世界に迷い込んだ戸惑いと焦りは、あたたかみのある人々によって癒やされ、やがて花開く。
新天地に向かう人や、新たなスタートを切る人に捧げたい一作。