Page×3

読書感想など

【半エッセイ】東大夢教授/遠藤秀紀

 

東大の教授である遠藤秀紀氏は動物の遺体を解剖して、まだ知られていない秘密を解き明かす「解剖学者」という肩書を持っている。

動物の遺体、といっても簡単に手に入るものではない。

日本にいる貴重な動物がもし亡くなったとしても必ずしも提供していただけるわけではない。 しかし解剖しなければ明かされない秘密が秘密のままとなってしまう。

逆に提供していただける算段となっても、数百キロもある動物をどのように運ぶのか、それほどまで巨大な動物をどこで解剖するのか、迷っていればみるみるうちに鮮度が落ちる。朝になれば開演となり人の目に触れる可能性がある。

しかもそれが同時多発的に起きたとしたら。。

と、遠藤秀紀氏の日常を日記式で語られる。

 

動物に関する話だけではなく、大学の拝金主義に唾を吐きつけるような話もあれば、一人の女性を救ったり、猫の死体を片付けたりする。また、筋金入りの電車オタクであり、特撮オタクでもあるため、語り始めたら止まらない。

 

400ページにも及ぶ本書では様々なジャンルの話が展開される。実は完全なるノンフィクションではなく、真実を織り交ぜたフィクションであるとこがあとがきにて明かされる。しかし、そうだとすれば遠藤秀紀氏は相当なストーリーテラーである。

 

文章がうまく、構成が変わるため飽きることがない。ある話で登場した人物がいつの間にか一緒に働いていたり、と一冊の連続短編集の顔を持っている。

 

 

東大夢教授

東大夢教授

 

 

『16年ぶりの奏でられた長編』零號琴/飛浩隆

f:id:dazzle223:20181119232222p:plain

零號琴。はて、なんて読むのだろうか。

ぜろごうとらきん。れいごうこと。ぜろとらこと。

答えは零號琴(れいごうきん)だ。

 

こんなの読めるか!と怒ることもなく手に取る。なにしろSF小説なのだからしょうがない。タイトルでまず「一体どのような内容なのだろうと」と惹きつける必要がある。

 

では、零號琴とはなにか。一言でいえば曲だ。

特種楽器技芸士のトロムボノクと相棒シェリュバンは惑星〈美縟〉に赴く。そこでは首都全体に配置された古の巨大楽器〈美玉鐘〉の五百年越しの竣工を記念し、全住民参加の假面劇が演じられようとしていた。上演の夜、秘曲〈零號琴〉が暴露する美縟の真実とは? 『グラン・ヴァカンス』以来、16年ぶりの第2長篇

あらすじさんありがとう↑

 

仮面をかぶり伝記の劇を演じる。伝記とは、いうなれば桃太郎やかぐや姫のようなおとぎ話、古事記と思っていただきたい。

ただそれだけなのだが、脚本を手がけた人物が気が狂ったと思われる本を出してきた。

その宇宙で人気を博したアニメフリギアマッシュアップしたのだ。

プリキュアではなく、フリギアだ。)

 

記事冒頭の写真を見ていただきたい。金と黒の重厚なデザインに明朝体のフォント。いかにもハードルが高そうな本に見えると思う。しかし中身は昔ながらというと語弊がありそうだが、12チャンのハチャメチャSFアニメぐらいのノリの軽さ。そこら中にあるパロディの数々はオタクであれば元ネタ探しに夢中になれるだろう。

それくらいライトなものなので構えることなく読んでみてほしい。

 

ただしそこに含まれる物語は軽くない。

すぐにその綺羅びやかな都市の風景に引き込まれ、同時に奇妙と怖さが入り混じった気持ち悪さを感じるだろう。

 

 

美しく、気持ち悪く、謎が巡り、フリギアが舞い、音楽が奏でられる。

 

零號琴

零號琴

 

 

のび太的な近未来『キルン・ピープル/デイヴィッド・ブリン』

f:id:dazzle223:20181031221029j:plain

 
自分のコピーを作り、そのコピーが自分の代わりに色々なことをしてくれる。その間自分はゲームをしたり遊んでいたい。
そんなのび太的な怠け思考を現実にしてしまった近未来のアメリカが舞台の『キルン・ピープル』
 

複製に溢れた世界

タイトルにもなっている「キルン」とは窯を意味している。
複製は人間のように肉の肉体ではなく工場から出荷した状態の人形。原型となる人間の思考をコピーし、それを家庭用の窯で加熱することで複製を完成させる。それほど簡単にコピーを作成することができる。しかも複数可能。
 

複製を作る理由

それはもちろん自分が楽をするためだ。
仕事を代わりにやってもらう複製を作り、子供の面倒を見てもらう複製を作り、買い物などの雑事をするコピーを作る。
友人と遊ぶのも複製だ。恋人との性交だって複製にさせる。
 
そして自分ができないことを体験されるためだ。
危険なアクティビティを複製に体験させる、複製同士を戦わせる、初めてあった人と性交させる(またか)。
などなどモラルに反する行為をさせる。
 
体験させたあとはどうするかと言えば、記憶の統合だ。それにより複製が体験した記憶を体験せずに得ることができる。
逆を言えば記憶を統合させない限り、複製がその日一日何をしていたのか分からない。
危険なことをさせすぎて複製が壊れてしまったらせっかくの体験の記憶を得ることができない。
 

複製の特徴

不気味の谷を超えた複製は、人間そっくりのため本物の人間と見分けがつかない。
そのため肌の色をイエロー、グリーン、レッド等という人肌にはない色で染色し、見分けている。
色によってもスペックが異なり、主人公モリスの場合はグレイを調査用、グリーンを雑用、レッドを情報調査と使い分けをしている。
高価な複製になれば様々な機能が組み込まれており、肌の色も人間に寄せている。
 

複製に意識はあるのか

小説は原型と複製の視点が章ごとに変わることで、同じ出来事を別の視点から語られる。もしロボットの視点であればあったことをそのままレポートのように描写するだろう。
 
しかし複製はロボットとは異なり意識を持っている。
「なぜこんなことをしないといけないのか」「今日は仕事をほっぽりだしてビーチに行こう」などと自分自身で考えて行動をしている。その様子は人間そのもの。
 
その「人間そのもの」であるが故に、複製に魂があるのか? と議論されている。
それ故に、
『たった一日の生命のために酷使させるのはおかしい』と複製自体を非難する団体や、
『複製にも人と同じ権利を求める』という団体が抗議活動を続けている。
 
 

本作の主人公の職業は探偵

長々と複製の説明になってしまったが、肝心の本作の主人公は探偵である。名はモリス。
彼は事件のレベルによって機能別に複製をつくりそれぞれ担当させる。
普通の探偵ならば別々に依頼を受け、別々に時間を設け調査をするが、複製を何体も作れば同時進行で事件調査を進める事が出来る。
時には複製Aと複製Bの依頼元がライバル会社の場合もある。その場合、複製同士が競い合う事にある。
そんな事も知らず原型はベットで寝て過ごす。複製が事件解決したら記憶を併合すれば良い。
 
ハードボイルドなSF小説が読みたい方におすすめです。