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読書感想など

心臓で語れ!『氷』/ウラジーミル・ソローキン

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あらすじ

現代のモスクワで「兄弟団」と呼ばれる団体が存在した。彼らは拉致した人間の胸をハンマー殴打して仲間を探し回っていた。ハンマーの殴打で生き残った人々の心臓は<真の名前>を語り始め「兄弟団」受け入れられる…

 

 

冒頭からフルスロットル

あらすじでは全く説明になっていないが、この通りなのでしょうがない。
冒頭から「兄弟団」は拉致した人をハンマーで殴打を繰り返す、しかもただの鉄のハンマーではなく<氷のハンマー>なのだ。
 
”「応えよ!」ウラノフは大声を張り上げた。
腕を振り上げ、ハンマーで男の胸の真ん中を打った。
太った男はいっそう激しく呻きだした。
「応えよ!」間を置いてから、ウラノフは再び言った。そしてまた強く打った。太ったおことは腹の底から唸りだした。三人は息を殺し、耳を傾けた。”

 

なぜ<氷のハンマー>なのか、「兄弟団」の目的はなんなのか、いきなりこの状況に放り込まれた登場人物と読者の頭に?が渦巻く。そしておかしなことに「兄弟団」は<氷のハンマー>で打ち抜く毎に胸に耳を向け、何かを聞き逃すまいとする。
 
”「心で語れ! 心で語れ! 心で語れ!」ウラノフは大声を張り上げた”
 
「兄弟団」マジで怖い。
何が怖いかって無抵抗な人に対して慈悲もなくハンマー(しかも氷)を打ち付ける事も恐ろしいが、生き残った人に対して献身的に看病して、金銭を提供してくれる。
拉致して、ハンマーで殴って、看病する。意味がわからない。
なぜこんな事するのか、何を考えているのか分からない人間に対して恐怖を感じるのは現実と変わらない。
 

現代に至るまでの第二部

と、人の胸を老若男女隔たりなく<氷のハンマー>で打ち抜く集団「兄弟団」がいかにして現代のモスクワに拡大する遍歴を第二部で語られる。スターリン時代から始まり現代に至るまでの物語なので、世界史を知っていればもっと面白かっただろうと後悔。
 

実験的な文体・構成について

文体は誰か一人にピントを合わせたり、全体を俯瞰する視点に変わる。
第一部では第三者の視点で進むが、登場人物にト書きのように名前、年齢、特徴が表記される。地の文でその人物を描写するのではなく、映像のようにパッと見ただけでわかるようになっている。登場人物が多く、この一部だけでも10名以上登場するが主要な人物以外はさらりと流しても問題はなく、実験的な書き方となっている。
第二部ではがらりと変わり、ソ連に生きる少女の視点で語られる。修飾語のない無味乾燥な文体ではあるがそれが物語にぴったりはまる。
 

雑談

全3エピソードの『氷三部作』を時系列順に並べると『ブロの道』『氷』『23000』となる。
しかし日本での刊行では『氷』『ブロの道』『23000』とエピソード2から刊行され始めたので、初めて購入するさいに書店で「EP2?EP1はどこにあるの?」と混乱した。
 

 

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)

 

 

↓読み終えたタイミングでエピソード1も出てました

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

 

 

 『氷』つながりでこちらもどーぞ

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