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読書感想など

小説に関わる者に捧げる物語『1000の小説とバックベアード』/佐藤 友哉

 

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

あらすじ

4年間勤めた会社をクビになった「片説家」の木原。彼は失意の中、謎めいた女性、配川ゆかりから「私のために小説を書いて欲しい」と頼まれ事になった。奇しくも失踪している配川ゆかりの妹の唯一の手がかりが木原の勤めていた会社が手がけた片説だった…

 

職業「片説家」

本書の中心となる設定の一つ「片説家」は少々特殊な職業だ。小説家が大衆に向けて物語を作るなら、片説家は顧客個人に対してトラウマを除くための物語を作る。あくまで個人に向けた小説作りなため、まずどのようなトラウマを持っているのかヒアリングを行い方向性を決めて、それに合わせたサプリメントとしての物語を考えて小説を集団で書き上げていく。

 

物語はあらぬ方向へ進む

あらすじを読んだときは、片説家の物語によって人を癒すサプリメント小説と思っていた。しかし読み始めると良い意味で裏切られた。冒頭でいきなり会社をクビになったと思えば、配川ゆかりかた小説執筆を依頼をされ、探偵やバックベアードまで登場して、小説そのものの存在を揺るがしかねない「1000の小説」と呼ばれる陰謀に巻き込まれる。
また、小説家・片説家ときて「やみ」と呼ばれる者が登場する。彼らは小説の才能があるのに努力をせず、小説に関わるものすべてを笑う。そして彼らは毒のみを抽出した文章を世に流そうとする。
 
”小説家が書くものは媚薬にして毒薬。片説家が書くものはサプリメント。やみが書くものは麻薬”
 
文章だけで毒を振りかざすなんで随分と大袈裟だなと思いながら、自身の体験として小説を読んでいると、ある文章を読んだだけで感情が動かされ脳内にイメージが浮かび、それがしばらく離れない事がある。文章や言葉、つまりは言語に傷つけられ悲しくなったり、その反対に喜んだり、怒ったり、様々な感情が揺さぶられる。媚薬、毒薬、サプリメント、麻薬が含まれる言語はフィクションの中の特別な設定ではなく実生活で起きている。
 
ハードボイルドとミステリーを掛け合わせた村上春樹に似た雰囲気を持ちつつ、軽妙な語り口なので読みやすい。しかしながら本書を探したところ書店には置いておらずアマゾンでも中古しかない。偶然にも図書館で見つけたので読むことができたが、それに至るまでがハードル高かった…
 

 

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)