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読書感想など

オススメ!

傷多き人々に送る「街とその不確かな壁/村上春樹」

村上春樹作品の中で一番読み返している「世界の終わりとハードボイルド」という作品がある。特殊な職業についている主人公がある日トラブルに追われ、自分の組織からも背き、敵組織から追われてしまう。もう一方の世界では、壁に囲まれた街に住むことになり…

【2020年ベスト本10選】

2020年に読んだ本の中からベスト10を選びました。 リンクはツイッターや本ブログへの感想になります。 彼女の知らない空/早瀬耕 彼女の知らない空/早瀬耕 #読了たった一つ違うだけで、この世界は変わってしまう。一つの法。一つの選択。一つの言葉。緩やかな…

Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔/アイリス・チュウ 鄭仲嵐

台湾のIT大臣オードリー・タンと聞けば記憶に新しい人も多いはず。 しかし彼女がどの様な経緯で大臣になったのか知る人は少ないだろう。 ◆マスコットとしてのオードリー・タン ネットユーザーの一人が「タンさんを見た」と書き込めば、「神様降臨」「宝くじ…

【小説】サイバー・ショーグン・レボリューション/ピーター・トライアス

第二次世界大戦にて日独が勝利した世界を舞台にした歴史改変SF。 同じく日本勝利後の世界を描いたフィリップ・K・ディックの「高い城の男」もあるが、USJシリーズではメカと呼ばれる二足歩行ロボットが闊歩している。歴史改変に加え日本のエンタメ(アニメや…

【映画】ジョーカー

なぜ彼が生まれたのか、いや生まれざる得なかった。不遇の生活の中でも笑いを絶やさないで、という母の言葉に支えられながら底辺の生活を過ごすアーサー。しかし母の嘘、誰からも相手にされず、居ないのもとされる。暴力を受け、笑わせではなく笑われる。 限…

【小説】2018年ベスト本

今回は2018年に読んだ本の中から特に面白かったものを10冊選びました。感想や紹介はブログやTwitterで公開してますので、そちらからの引用とさせていただきます。 白痴/ドストエフスキー 白痴/ドストエフスキー読了上中下と通して読んでいる間に何度もムィス…

【小説】シンドローム/佐藤哲也

ある日、何の前触れもなく空を裂くようにして何かが町外れに落ちた。クラスメイトや近隣住民が隕石かと浮き足立つ中で、主人公の僕は後ろの席にいる久保田さんの事が気になってしょうがない。久保田が「気味が悪いね」と言うからそれに賛同するようにして「…

のび太的な近未来『キルン・ピープル/デイヴィッド・ブリン』

自分のコピーを作り、そのコピーが自分の代わりに色々なことをしてくれる。その間自分はゲームをしたり遊んでいたい。 そんなのび太的な怠け思考を現実にしてしまった近未来のアメリカが舞台の『キルン・ピープル』 複製に溢れた世界 タイトルにもなっている…

羊をめぐる再冒険を経て『羊をめぐる冒険/村上春樹』

年に何回しか更新しないこのブログも少なからず毎日のようにアクセスがある。その大半は三年前に公開をした村上春樹の青春三部作について書いた以下の記事だ。 dazzle223.hatenablog.com 今読んでみると自分に事ながら、よくこんなにも長文を書いたもんだと…

ドラック博物館へようこそ『アマニタ・パンセリナ』/中島らも

本書は決して薬物のススメではなく実際の体験(!)を交えた反薬物のススメ隣っている。 数々の薬物・合法ドラッグを疑似体験しているかのような感覚に陥り、そして著者が現在進行形で中毒になっている(本書が出版された当時)薬物など未体験ゾーンが広が…

煮え切らない卵の新たな戦い『マルドゥック・アノニマス』

冲方丁さんのマルドゥックシリーズの最新刊。 これまで発売されたマルドゥックシリーズを読んでいないと理解ができない敷居の高い作品ではなく、最新刊で知りましたという人でも手に取ってもらいたい。本書が面白かった、という人はその後で過去シリーズを…

人類にとって個性とは必要なものなのか『クロニスタ 戦争人類学者』/ 柴田勝家

▼そもそもの始まり 第二回ハヤカワSFコンテスト受賞後の第1作となる本作は大きなスタートを切った勢いをそのままに予想を超える面白さがあった。 きっかけとしては『伊藤計劃トリビュート』の1作として本書の一章が掲載された事にある。率直な感想として『ニ…

生命賛歌に満ちた近未来の日本『あるいは修羅の十億年』/古川日出男

古川日出男さんの新刊は『想像ラジオ』『ムーンナイト・ダイバー』『バカラ』などの作品と同じように震災をテーマにした小説『あるいは修羅の十億年』です。 2026年の近未来日本を舞台に “島”と呼ばれる土地と東京、フランスと複数の人間の視点から語られる…

ビッグブラザー豚さん説『動物農場』/ジョージ・オーウェル

ジョージ・オーウェルの『1984』は人間を支配する方法とそれに悩む主人公の心境がリアルスティックに描いたディストピア小説としてメディアで紹介され、引用されることが多い作品です。 私も読んだことがあったのですが、他作品を知りませんでした。作品が…

歩みは遅いが、確実に進む日常。『かめくん』/北野勇作

北野勇作さんの『かめくん』を読みました。 きっかけは北野勇作さんがtwitter上で行っている【ほぼ百字小説】を目にしたことです。 140文字内に収められた描写にSF的な想像力を掻き立てられ、余韻を残します。 https://twitter.com/yuusakukitano http://tog…

夢の不条理感に脳みそがジンジンする。『パプリカ』/筒井康隆

筒井康隆さんの代表とされる作品『時をかける少女』は細田守監督によってアニメ映画されたことで若い世代にも広く知れ渡り知名度が高く、また最近では『旅のラゴス』が書店でプッシュされている。それにつられてかその他の作品も平置きされるようになり、『…

君は過去を遡れたらヒトラーを殺すかい?『デッド・ゾーン』/スティーブン・キング

事故により5年近く昏睡状態のまま意識を失っていた教師ジョン・スミス。 5年間の眠りがジョニーにもたらしたものは、年をとった両親、母になったかつての恋人セーラ、莫大な入院費用。そして運命とも呪いとも言える能力が彼に備わっていた。 ▼5年間のブラン…

ジャケ買いしてもいいんだよ『私は存在が空気』/中田永一

「百瀬、こっちを向いて」や「くちびるに歌を」の中田永一とカバーイラストを浅野いにおが手がけた超能力+青春短編集。 短編によって能力もキャラクターも変わり、話同士の連続性はないものの単体としてどれも面白みがある。恋愛、暴力、犯罪、コミカル、ハ…

静かに心に染み込んでくる物語『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

アカ、アオ、クロ、シロ。それぞれの名前に色を持つ四人と本作の主人公「多崎つくる」の5人は高校時代の親友グループだった。しかしある日を境に多崎つくる四人から縁を切られてしまう。そして月日は過ぎ去り、30を半ばに差し掛かった多崎つくるは「沙羅」と…

あなたは世界が終わるまでの七日間で何をする?『世界の終わりの七日間』/ベン H ウィンタース

終わっていく世界 10月3日水曜日、地球に小惑星2011GV通称”マイヤ”が衝突をする。それによって予想される未来は恐竜が歩んだ歴史と同じだ。それを知った人々はSNSでイイねやシェアをしていた。だがそれが現実のものになってくると、長年温めていた「やりた…

変貌する獣は何を思うか『犬の心臓』/ミハイル・ブルガーコフ

ミハイル・ブルガーコフの『犬の心臓』が新潮文庫から発売されました。(正確には「運命の卵」も収録)ホードカバー版とは翻訳者が変わってしまったのでもしかしたらニュアンスが違うかもしれませんが「笑い」と「恐ろしさ」が入り混じった作品でした。 ロ…

肉を掘り下げて世界を知る『世界屠畜紀行』/内澤 旬子

牛、羊、山羊、犬と世界中で食べられている肉はどのように作られているのか?「そりゃ殺してバラして加工しているだけだと」と言葉で言うだけなら簡単だ。だが現実は国によって文化や宗教、肉を食べることに対しての受け答え方も違う。また屠畜を職業として…

恋愛小説苦手のススメ『海の見える街』/畑野智美

「恋愛小説ってなんか苦手だ」漠然とずっと恋愛ものに苦手意識がありました。 ミステリーの中の恋愛やアクションの中の恋愛など、別のジャンル内に内包されている恋愛劇ならば読む事は出来るのですが、純粋な恋愛小説は読む機会はありませんでした。とくに、…

何度も読み返したくなる本10選

ツイッターやブログで「#本棚の10冊で自分を表現する」が話題になり、幾つかブログを拝見して読みたいリストに追加した。それからすっかり時期がズレてしまったが「自分ならどの本だろう」と本棚や今まで読んできた本を振り返ってみた。 ただ「自分を表現す…

男たちの興亡史『電気は誰のものか』/田中聡

きっかけ 電灯をつけて、パソコンを立ち上げて、今まさにこの文章を書いている。どちらも電気がないと使うことができない。その電気は東京電力と契約をして毎月使った分だけ支払っている。それは生まれた頃から当たり前のことで何一つ疑問にも思わなかった。…

カラスが囁く物語『海辺のカフカ』/村上春樹

あらすじ 15歳の少年、田村カフカは父の部屋から金のライター・折り畳み式ナイフ・ポケットライト・サングラス・姉と自分の写っている写真を持ち出して家出をした。カラスと呼ばれる少年が話しかけてくる。「世界でいちばんタフな15歳になるんだ」その意味も…

心臓で語れ!『氷』/ウラジーミル・ソローキン

あらすじ 現代のモスクワで「兄弟団」と呼ばれる団体が存在した。彼らは拉致した人間の胸をハンマー殴打して仲間を探し回っていた。ハンマーの殴打で生き残った人々の心臓は<真の名前>を語り始め「兄弟団」受け入れられる… 冒頭からフルスロットル あらす…

手軽に簡単に人格を書き換えよう『重力が衰えるとき』/ジョージ・アレック・エフィンジャー

あらすじ 主人公のマリードはブーダイーンを知り尽くした探偵。ある日ロシア人から人探しを頼まれるが、その場でジェームスボンドのモジュールをつけた人物に殺されてしまう。それを機にマリードの友人や関わった人間が次々に殺されて行く。殺されるパターン…

「少し不思議」な短編集。『たんぽぽ娘』/ロバート・F・ヤング

たんぽぽ娘 (河出文庫) 作者: ロバート・F・ヤング,伊藤典夫 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2015/01/07 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る ロバート・F・ヤング自体初めてだったのですが、題名にもなっている代表作『たんぽぽ娘』…

仮想現実空間の迷宮へ『明日と明日』/トマス・スウェターリッチ

明日と明日 (ハヤカワ文庫SF) 作者: トマススウェターリッチ 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2015/08/31 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る あらすじ テロによってピッツバーグが<終末>を迎えてから10年。仮想現実空間上の街<アーカイヴ…