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読書感想など

【小説】2018年ベスト本

今回は2018年に読んだ本の中から特に面白かったものを10冊選びました。
感想や紹介はブログやTwitterで公開してますので、そちらからの引用とさせていただきます。

 

白痴/ドストエフスキー

 

 

折りたたみ北京

 

正直すべての短編がベスト級といっても過言ではない。
特に表題作の「折りたたみ北京」は目を見張る物がある。

 

エロス/広瀬正

 

dazzle223.hatenablog.com

 

マイナスゼロばかりが取り上げられることが多い広瀬正さんだが、私は「エロス」のほうが男女のロマンスにあふれていて、漂う悲しい雰囲気に惹かれてしまった。


プラネタリウムの外側/早瀬耕

 

dazzle223.hatenablog.com

 twitterで最初に知ったときには大変失礼ながら小説家ということを知らなかった。

その後、文庫化された「未必のマクベス」を読んでぶっ飛んだ。(ちなみに昨年のベストにも入れました)プラネタリウムの外側は短編なので是非オススメしたい。


メカサムライエンパイア/ピーター・トライアス

 

第二次世界大戦に日本が勝利した架空の未来を描いた第二作。

第一作に比べると作者のロボットアニメ愛に溢れており、その分少し対象年齢が落ちているのも否めないが精神年齢低めなのでバッチリ合いました。

電脳砂漠/G・A・エフィンジャー

 


母なる夜/カート・ヴォネガット


いたずらの問題/フィリップ・K・ディック

「高い城の男」といったメジャーな作品よりも実は近年新装版として発売される作品のほうが面白かったりする。


零號琴/飛浩隆

 

シンドローム/佐藤哲也

dazzle223.hatenablog.com

 

 

といった具合の2018年ベスト本でした。
振り返ってみると面白い本が潤沢すぎて手にあまるほどの年でした。といっても今年はまだありますので数冊は読めるかと思います。

 

以下はAmazonリンクなのでご自由に。

 

 

白痴 1 (河出文庫)

白痴 1 (河出文庫)

 

 

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

 

 

エロス(広瀬正小説全集3) (集英社文庫)
 

 

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

母なる夜

母なる夜

 

 

 

いたずらの問題 (ハヤカワ文庫SF)

いたずらの問題 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

 

零號琴 (早川書房)

零號琴 (早川書房)

 

 

 

シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

 

 

 

【小説】シンドローム/佐藤哲也

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ある日、何の前触れもなく空を裂くようにして何かが町外れに落ちた。クラスメイトや近隣住民が隕石かと浮き足立つ中で、主人公の僕は後ろの席にいる久保田さんの事が気になってしょうがない。久保田が「気味が悪いね」と言うからそれに賛同するようにして「気味が悪い」と言う。

気軽に声をかけることが出来る絶妙な距離を保つことに執心して、メールの短い文章にも意味があるのではないかと、嫌われたのではないかと、しつこく送りすぎたのではないかと、思考が螺旋の様にぐるぐると回っている。
不健康にも思える主人公の思考だが、どこにでも居る普通の少年なのだ。

 

それが起きてしまった

 

何かが落ちてから数日後に大きな事件が起きた。
詳細は記載しないが「災害」とだけ言っておこう。その災害に主人公や久保田、その他多くに町人が巻き込まれてしまう。

その町に何かが起き大勢の人が亡くなった。
それを予期した人がいた。
となり町の出来事だった。
家族や友人が住んでいた。
テレビニュースで知った。
知らない町のことだった。
普通の人々が普通に暮らし普通に恋をしていた。

 

無力である主人公


主人公は普通の人間で特殊な能力も力も無い。町で起きている変化よりも後ろの席の久保田の事を考えてしまう。
心の距離が触れそうで触れない、絶妙な距離感を縮めたくない。縮めようとして心地よい距離感が遠くなってしまうのを恐れている。
そのような誰にでも心当たりのある恋心を抱いているただの人間だ。読者と何も変わらない。

そんな彼が災害の被災者となり、何も力にもならず、ただ流れに呑み込まれてしまう。


小説内で起きる災害はあり得ないことかもしれないが、現実世界で起きた多くの災害が頭をよぎった。それらの災害に巻き込まれてしまった人々も主人公と同じ「ただの人」だった。

 

シンドロームはSF小説という体裁を取った青春小説であり、同時に被災者になってしまったとある市民を描いた災害小説となっている。どこか遠くの世界のことではなくごく近く、私たちの近所で起こりうる話。

西村ツチカさんの挿絵も素晴らしい一冊です。

 

 

シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

 

 

 

北極百貨店のコンシェルジュさん 1 (ビッグコミックススペシャル)

北極百貨店のコンシェルジュさん 1 (ビッグコミックススペシャル)

 

 

 

【小説】夜行/森見登美彦

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森見登美彦といえば黒髪乙女である。

 

森見登美彦氏の新刊「熱帯」が発売されたタイミングでまだ読んでいなかった前作の「夜行」を読むことにした。

 

カバーイラストを見てみよう。黒髪ロングの女性がこちらを向いているが視線を外している。その背後には通り過ぎていく列車と今にも夜に包まれそうな(または夜が明けようとしている)風景が広がっている。

黒髪乙女・列車・夜行・夜
ここから導き出されるストーリーは、


夜行列車に乗った大学生の僕は偶然出会った黒髪乙女に一目惚れをした。彼女の後を追い列車の行ったり来たりするが追いつくことが出来ない。
そのうち黒髪乙女を追うライバルの出現や、日曜クラブの宴会に巻き込まれ列車に住むという狸の捕獲を命じられる、樋口と名乗る天狗に勝手に弟子にすると主従関係を結ばれるなど長い長い夜行列車の一夜が始まる・・

 

と、ここまで森見登美彦的想像を切り貼りしてからページをめくるが1ページ目から様相が違った。
森見登美彦を広く広めたのは「夜は短し歩けよ乙女」であろう。しかし、実は同じ京都が舞台でもポップさの欠片もないの「きつねのはなし」という小説がある。

「夜行」は「きつねのはなし」を引き継ぐ日本伝統の怪奇小説なのだ。

 

あらすじ


京都で学生生活を過ごした六人の男女が十年ぶりに集まった。久しぶりの再会に浮き足立つが、そこには一人の女性が欠けていた。
その女性は十年前の鞍馬の火祭の日に忽然と姿を消してしまった。その出来事は六人の心に深く突き刺さり、忘れることがなかった。

仲間と再会する数時間前、主人公は偶然にも彼女によく似た女性を見かけ後を追いかけるが、ある画商で見失ってしまった。その画商には「夜行」というタイトルのつけられた連作の銅版画があり、顔のないのっぺりとした女性がこちらに呼びかけるように手を上げていた。
そのことを仲間に話したことをきっかけに一人、また一人と旅先でその絵に関するエピソードを話し始める。

 

旅先で彼女に出会ってしまった仲間達

 

ある人は、妻を追いかけて。
ある人は、夫と友人との旅先で。
ある人は、昔の知人と偶然再会して。

いずれも旅先で同じように顔のない女がこちらに呼びかけている銅版画が登場する。
そして直接的な言い方はしていないが死または、この世ならざるものに誘われてしまったことを暗示させる閉じ方をする。

 

しかし、最後の語り人によってひっくり返る。
「今まで読んできた話は一体誰のものだったのか」と顔のない語り人たちがこちらを向いたかのようだった。
幽霊、幽鬼、といった日本伝統の怪奇にぞくりとしていた中で最初に感じていた違和感が解消されると供に背筋が凍る思いをした。(紋切り型な言い方だが、体験してしまうと「背筋が凍る」がとてもしっくりとくる)

 

京都を舞台にしたポップな世界観が好きな人には森見登美彦氏の違う面見てもらいたい。
ホラー小説好きな人にもお勧めしたい一冊。

 

 

夜行

夜行