【小説】2018年ベスト本
今回は2018年に読んだ本の中から特に面白かったものを10冊選びました。
感想や紹介はブログやTwitterで公開してますので、そちらからの引用とさせていただきます。
白痴/ドストエフスキー
白痴/ドストエフスキー読了
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年1月19日
上中下と通して読んでいる間に何度もムィスキンは病的である、常人である、聖人である、と何度も見る目が変わっていく。
それは物語としても同じ。喜劇であり、ロマンスであり、悲哀、と何度も顔を変えていく。 pic.twitter.com/48e7kETqkX
折りたたみ北京
折りたたみ北京 #読了
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年3月22日
どこから読んでもハズレなしの奇跡のような豪華絢爛SFアンソロジー。
ケン・リュウの「中国だけでなく人類全体に言葉を発している」という序文通りのローカルに収まらないグローバルな作品ばかり。 pic.twitter.com/NZHleDNgXz
正直すべての短編がベスト級といっても過言ではない。
特に表題作の「折りたたみ北京」は目を見張る物がある。
エロス/広瀬正
マイナスゼロばかりが取り上げられることが多い広瀬正さんだが、私は「エロス」のほうが男女のロマンスにあふれていて、漂う悲しい雰囲気に惹かれてしまった。
プラネタリウムの外側/早瀬耕
twitterで最初に知ったときには大変失礼ながら小説家ということを知らなかった。
その後、文庫化された「未必のマクベス」を読んでぶっ飛んだ。(ちなみに昨年のベストにも入れました)プラネタリウムの外側は短編なので是非オススメしたい。
メカサムライエンパイア/ピーター・トライアス
メカ・サムライ・エンパイア/ピーター・トライアス #読了
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年4月23日
戦争によって両親やアイデンティティを失い、身体・精神的にも流浪の民になりつつある青年が居場所を見つけていく逆転劇。タイトル負けしないメカ成分増し増しの傑作。
パシフィックリムと同タイミングで読んだことが相乗効果を生んでいる。 pic.twitter.com/acqgPJg0DV
第二次世界大戦に日本が勝利した架空の未来を描いた第二作。
第一作に比べると作者のロボットアニメ愛に溢れており、その分少し対象年齢が落ちているのも否めないが精神年齢低めなのでバッチリ合いました。
電脳砂漠/G・A・エフィンジャー
電脳砂漠/G・A・エフィンジャー #読了
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年5月30日
イスラム都市を舞台にしたサイバーパンク小説。冒頭、主人公マリードは誘拐され砂漠に放置されてしまう。灼熱の砂漠の中、権力も役も立たない。が、そんな中でも復讐心だけはつきない。 1/3 pic.twitter.com/cXPT7x7t5K
母なる夜/カート・ヴォネガット
母なる夜/カート・ヴォネガット・ジュニア #読了
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年8月5日
初読みですがヴォネガットの中で一番心に染み込む小説でした。なぜなのか?と問われても、まだ理由が形になっていない。
ただ、スパイとしてナチスに潜り込んだ過去を持つキャンベルが崩壊したダムの様に感情を解き放す姿に心打たれたのは確かだ。 pic.twitter.com/zm9RgBOYAI
いたずらの問題/フィリップ・K・ディック
いたずらの問題/PKD #読了
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年8月24日
PKDにしては地味なタイトルだなぁ、と読み始めてみればどんどん面白くなる。
滅び行く世界では道徳的な行動を強いられ、年齢関係なく違反すれば晒し挙げられる…
モラルで雁字搦めになる中、ある男が起こした"いたずら"にスカッとする!今迄の作品中で一番気持ちの良いラスト pic.twitter.com/xah3QPDtNU
「高い城の男」といったメジャーな作品よりも実は近年新装版として発売される作品のほうが面白かったりする。
零號琴/飛浩隆
零號琴/飛浩隆 #読了 #059n
— えむぜっとえすじー (@MzSg) 2018年11月8日
黒と金で人を圧倒させる重厚なカバーデザイン、その厚さ(600頁)に二の足を踏んでしまうかもしれない。
しかしノリはマンガやアニメの様に軽口で、ワンシーン毎の描写が美しい。
確定した結末とそれを変えようとする二次創作のせめぎ合いの本作は、怪作・改作・快作・蟹作 pic.twitter.com/UvM8e6JUhj
シンドローム/佐藤哲也
といった具合の2018年ベスト本でした。
振り返ってみると面白い本が潤沢すぎて手にあまるほどの年でした。といっても今年はまだありますので数冊は読めるかと思います。
以下はAmazonリンクなのでご自由に。
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)
- 作者: 郝景芳,ケンリュウ,牧野千穂,中原尚哉,大谷真弓,鳴庭真人,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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【小説】シンドローム/佐藤哲也
ある日、何の前触れもなく空を裂くようにして何かが町外れに落ちた。クラスメイトや近隣住民が隕石かと浮き足立つ中で、主人公の僕は後ろの席にいる久保田さんの事が気になってしょうがない。久保田が「気味が悪いね」と言うからそれに賛同するようにして「気味が悪い」と言う。
気軽に声をかけることが出来る絶妙な距離を保つことに執心して、メールの短い文章にも意味があるのではないかと、嫌われたのではないかと、しつこく送りすぎたのではないかと、思考が螺旋の様にぐるぐると回っている。
不健康にも思える主人公の思考だが、どこにでも居る普通の少年なのだ。
それが起きてしまった
何かが落ちてから数日後に大きな事件が起きた。
詳細は記載しないが「災害」とだけ言っておこう。その災害に主人公や久保田、その他多くに町人が巻き込まれてしまう。
その町に何かが起き大勢の人が亡くなった。
それを予期した人がいた。
となり町の出来事だった。
家族や友人が住んでいた。
テレビニュースで知った。
知らない町のことだった。
普通の人々が普通に暮らし普通に恋をしていた。
無力である主人公
主人公は普通の人間で特殊な能力も力も無い。町で起きている変化よりも後ろの席の久保田の事を考えてしまう。
心の距離が触れそうで触れない、絶妙な距離感を縮めたくない。縮めようとして心地よい距離感が遠くなってしまうのを恐れている。
そのような誰にでも心当たりのある恋心を抱いているただの人間だ。読者と何も変わらない。
そんな彼が災害の被災者となり、何も力にもならず、ただ流れに呑み込まれてしまう。
小説内で起きる災害はあり得ないことかもしれないが、現実世界で起きた多くの災害が頭をよぎった。それらの災害に巻き込まれてしまった人々も主人公と同じ「ただの人」だった。
シンドロームはSF小説という体裁を取った青春小説であり、同時に被災者になってしまったとある市民を描いた災害小説となっている。どこか遠くの世界のことではなくごく近く、私たちの近所で起こりうる話。
西村ツチカさんの挿絵も素晴らしい一冊です。
【小説】夜行/森見登美彦
森見登美彦といえば黒髪乙女である。
森見登美彦氏の新刊「熱帯」が発売されたタイミングでまだ読んでいなかった前作の「夜行」を読むことにした。
カバーイラストを見てみよう。黒髪ロングの女性がこちらを向いているが視線を外している。その背後には通り過ぎていく列車と今にも夜に包まれそうな(または夜が明けようとしている)風景が広がっている。
黒髪乙女・列車・夜行・夜
ここから導き出されるストーリーは、
夜行列車に乗った大学生の僕は偶然出会った黒髪乙女に一目惚れをした。彼女の後を追い列車の行ったり来たりするが追いつくことが出来ない。
そのうち黒髪乙女を追うライバルの出現や、日曜クラブの宴会に巻き込まれ列車に住むという狸の捕獲を命じられる、樋口と名乗る天狗に勝手に弟子にすると主従関係を結ばれるなど長い長い夜行列車の一夜が始まる・・
と、ここまで森見登美彦的想像を切り貼りしてからページをめくるが1ページ目から様相が違った。
森見登美彦を広く広めたのは「夜は短し歩けよ乙女」であろう。しかし、実は同じ京都が舞台でもポップさの欠片もないの「きつねのはなし」という小説がある。
「夜行」は「きつねのはなし」を引き継ぐ日本伝統の怪奇小説なのだ。
あらすじ
京都で学生生活を過ごした六人の男女が十年ぶりに集まった。久しぶりの再会に浮き足立つが、そこには一人の女性が欠けていた。
その女性は十年前の鞍馬の火祭の日に忽然と姿を消してしまった。その出来事は六人の心に深く突き刺さり、忘れることがなかった。
仲間と再会する数時間前、主人公は偶然にも彼女によく似た女性を見かけ後を追いかけるが、ある画商で見失ってしまった。その画商には「夜行」というタイトルのつけられた連作の銅版画があり、顔のないのっぺりとした女性がこちらに呼びかけるように手を上げていた。
そのことを仲間に話したことをきっかけに一人、また一人と旅先でその絵に関するエピソードを話し始める。
旅先で彼女に出会ってしまった仲間達
ある人は、妻を追いかけて。
ある人は、夫と友人との旅先で。
ある人は、昔の知人と偶然再会して。
いずれも旅先で同じように顔のない女がこちらに呼びかけている銅版画が登場する。
そして直接的な言い方はしていないが死または、この世ならざるものに誘われてしまったことを暗示させる閉じ方をする。
しかし、最後の語り人によってひっくり返る。
「今まで読んできた話は一体誰のものだったのか」と顔のない語り人たちがこちらを向いたかのようだった。
幽霊、幽鬼、といった日本伝統の怪奇にぞくりとしていた中で最初に感じていた違和感が解消されると供に背筋が凍る思いをした。(紋切り型な言い方だが、体験してしまうと「背筋が凍る」がとてもしっくりとくる)
京都を舞台にしたポップな世界観が好きな人には森見登美彦氏の違う面見てもらいたい。
ホラー小説好きな人にもお勧めしたい一冊。